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第2部 VSペッパー団編

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 ペッパー団を名乗る作戦目標群の調査が支援班とオペレーション班により開始された。
 真下アキナW.T.w.Tの特異性で過去を解析し、偵察班が目標の位置を割り出す。
 目標の位置は特異因子反応を検知することでおおよその座標を特定する方法がとられているが、前回のウラユビケンタとは違い、今回は観測地域に因子反応が微弱ながらびっしり覆われているため、それ以外の因子反応を検知するのが非常に難しい。
 おまけに相手は別世界に潜り込んでいるからなおさらだ。
 戦闘班は変わらず訓練をしていた。
 強化体育館に合同小隊が集合している。
 AUを身に着け、フィールドに立つ彼らの前には一体の特異獣が構えていた。
 体長6メートル、幅3メートルのイノシシだ。
 もちろん本物ではない。
 SHU設立当初に導入されたホログラムだ。
 あの訓練の後も何度か使用され、何度か改良された。
 今投影されている特異獣は、過去にSHUが討伐した中でも因子反応値が最大、つまり最強の特異獣だ。
 討伐したのは第1小隊、ヒナタがとどめを刺した。
 体育館のオペレーティングシステム内から、第3小隊オペレーター、フェイスオフが呼びかける。
 「準備は良いですか。」
 「問題ない。」
 ハードロックが答える。
 「ではカウント10。」
 短いカウントが始まる。
 この特異獣を実際に討伐したとき、奴にダメージを与えられたのはほとんどヒナタだけだった。
 素早い動きにルカの火球も当てることができずに、ヨルも武器を突き刺せたもののその後の回避反応に遅れた。
 それさえもヒナタは助けた。
 対してカイトは、何もできなかった。
 初めに獣を拘束して、それきり。
 それを思い出すと、たとえ相手がホログラムでも恐い。
 ヒナタがいないと勝てないんじゃないか?
 「2、1、行動開始!」
 ハードロックが放電した。
 雷撃が地面を這い獣に直撃する。
 巨体が痺れ、痙攣をおこした。
 その隙に全員が散開する。
 カウボーイが銃を撃った。
 着弾。
 線が獣とカウボーイがを結ぶ。
 D.D.Lがカウボーイを抱きかかえ縦横無尽に移動を始めた。 
 巨体に線がまとわりつく。
 獣が暴れても切れることはない。
 寧ろ獣の肉が裂かれていく。
 しかし暴れられると危険なのでモダンタイムスがは波動を放った。
 触れたものの時間進行を遅くするが特異獣も例外ではない。
 3秒間だけ獣の動きが鈍くなった。
 3秒で決める必要がある。
 ヘッジホッグがイノシシの鼻に剣を突き刺した。
 レッドが最大火力の炎を獣に直撃させた。
 ピクセルが銃を乱射し、エデンが地面を尖らせ獣に刺す。
 顔は裂け、片腹は焼け落ち、身体に穴が開いた。
 そして3秒経過。
 痛みに暴れる様子が投影される。
 が、倒れない。
 「マジかよ・・・。」
 思わずカウボーイが線を解除した。
 拘束を解かれた獣が猛る。
 トランジスタシスがセルを拡張した。
 強力な防御壁を獣の周りに展開する。
 「5秒は持たせます! 形勢を整えて!!」
 トランジスタシスが叫んだ。
 それに応えて素早く配置につきなおす。
 カウボーイは武器を構え、再び拘束の機会を伺っていた。
 拡張細胞の中で獣が暴れている。
 だが強固なそれを崩すことはかなわない。
 5秒経った。
 「解除します!」
 透明な緑の壁が消える。
 次の瞬間獣がカウボーイに向かって突撃した。
 ホログラムはカウボーイの身体をすり抜け壁にぶつかる。
 現実での死を意味する瞬間だ。
 フェイスオフが告げる。
 「カウボーイ、離脱してください。」
 拘束するものを失い、手に負えない存在になった獣に対して、ハードロックがまた放電した。
 地を這う雷撃は獣を焦がすが麻痺はしない。
 「耐性つけやがったッ!」
 刹那、トランジスタシスが4つの鳥嘴状の拡張細胞をホログラムに突き立てた。
 「レッドさん!」
 獣の身体に深く突きささる嘴が獣の動きを封じた。
 そこに火球が飛んでくる。
 火球は巨体に風穴を開けた。
 今度こそ、絶命が確定した。
 「特異獣排除成功、戻ってください。」
 言われた通り、小隊は控室に向かっていった。

 控室でカイトが待っていた。
 AU外骨格のヘルメットだけを外して座っていた。
 明らかな落胆の様子が見てとれた。
 誰も話しかけることができない。
 カイトが口を開いた。
 「お疲れさま、みんな。」
 「ああ、・・・お疲れ。」
 リュウジが答える。
 「大丈夫だった? さっきの。」
 「大丈夫だよ、ホログラムだし。怪我無いよ。」
 「そうか・・・。」
 沈黙が部屋を独占している。
 「やっぱり、ヒナタがいないと。」 
 「そんなことない。」
 「でも今あれ倒すのに手こずった。」
 「でも倒せた。」
 「犠牲が、・・・でたけど・・・。」
 「それは・・・。」
 「判ってる、あれは僕の油断だった。でもやっぱりヒナタがいないと僕たちは、弱い。」
 「・・・否定しきれねえこどよ・・・。」
 「ヒナタはなんども僕を助けてくれた。戦ってる最中だって、余裕ないはずなのにさ・・・!」
 「・・・・・・。」
 「それに僕は、SHUの総隊長だ、忘れてるかもしれないけど。でも僕は、僕たちは、ヒナタがいないと・・・。」
 また沈黙が訪れた。
 今度はヨルが声を掛けた。
 「先輩。僕らなんで小隊とか組んでるんですか。」
 「・・・・・・。」
 「お互いのカバーの為ですよね。どうしてヒナタがいないとだめでって話しするんですか。先輩が敵を拘束してないとヒナタだって攻撃もできないんですからね。ヒナタ先輩が強いんじゃないです。先輩がヒナタを強くしてるんです! だから僕ら同じ小隊にいるんですよ。」
 「・・・。」
 「てか先輩、僕たちが弱いって珍しく人責めたと思ったらやっぱり自分一人が悪いって思ってるんじゃないですか。いいですか。僕らはチーム組んでるんです。お互いをカバーするために。ヒナタが強すぎるのもありますけど、それを強くしているのは、僕たちですしカイト先輩も弱くない。」
 カイトは俯きながらその話を聞いていた。
 「ヒナタくんだって昔言ってました。カイト先輩は自分を責める癖があるって、自分が悪くないのに。」
 カイトは苦笑した。
 そして顔を上げると、ヨルに聞いた。
 「ヨルは、怖くないの、ヒナタがいなくて。」
 「そりゃ怖いですよ。ヒナタくん、僕らの中で一番強いんですもん。でもカイト先輩の方がもっと怖いでしょう、親友なんですから。だからせめてしょげない様にしてるんです。」
 「・・・ヨルも十分強いよ。」
 「先輩だって。」
 「いや、僕は・・・」
 「そういうとこですよ。」
 小隊が笑った。
 カイトも笑った。
 ヨルも満足して笑った。
 カイトの中で、ヨルが変えたものがある。
 ヨルがカイトに自信を与えた。
 ヒナタがいないと何もできないと思い込むカイトを、ヨルが変えてくれた。
 

 真下アキナが調査本部の会議室に飛び込んできた。
 目の下のクマはひどく、足取りも覚束ない。
 「過去の解析、完了しました・・・けど。」
 近くにいたスタッフが彼女に肩を貸した。
 そのままアキナは椅子に誘導される。
 「セッションを読んでほしいです。」
 カガミハラが声を掛ける。
 「お疲れ様。」
 「ありがとうございます。でも身体より、・・・心が、ちょっと。」
 数分でセッションが到着した。
 アキナの脳波と心拍を弄りだす。
 落ち着きを取り戻したアキナは深呼吸をして伸びをした。
 「よし。でもまたこれ見ないといけないのか・・・。」
 「・・・そうか。」
 「はい。私は、・・・できれば現実から目を放していたいです。」
 「すまないが、任務なんだ。」
 「判ってますよ、じゃあ、説明します。」
 そういってアキナは、ペッパー団の過去の解析結果を語り始めた。
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