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第2部 VSペッパー団編
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支援班による治療、記憶操作の後、施設の人々は解放された。
彼女らに残された記憶は、「突然現れた子供に職員が一人殺された」ことだけだ。
SHU隊員のことは完全に忘れている。
もちろんその後職員らは警察に通報した。
警察も、まるで屋内で車に押しつぶされたような変死体に動揺するだろう。
おそらくそれ以上の動揺と恐怖が、合同小隊を襲っていた。
大敗を喫した彼らは、身体に刻まれた傷とともに激しい恐怖を覚えていた。
SHU設立以来初めての敗北だった。
圧倒的なパワーの前に屈した。
一撃を受けただけで立ち上がれなかった。
そのまま、死んでいたかもしれない。
なのにあの子供たちは「面白そう」という理由で隊員たちを逃し、いずれ再戦を挑んでくる。
単純な戦力差がそこにあった。
それを知り、合同小隊は絶望していた。
カガミハラでさえ焦りを覚えていた。
イーグルスのカーゴで中学校に戻り、高速治療を受けることが、苦痛だった。
恥じらいとかそういうものではない。
諦観に近い感情が隊員を覆っていた。
カイトはその絶望の空気の中に身を置いていた。
彼自身は人々の避難誘導を行っていたので、戦闘には参加していなかったが、今のこの空気から彼らの嘆きを悟っていた。
合同小隊小隊長に、同級生に話しかける。
「リュウジ。」
「カイト。」
「・・・怪我は、大丈夫?」
「ああ、ちっちゃな骨がちょっと折れてただけでさ。・・・もう治してもらったから問題ねぇよ。ハハッ・・・。」
笑みを浮かべながら応対したが、その笑いは乾いていた。
笑顔も口だけで、眼は黒く沈んでいる。
その憂鬱な横顔が、カイトの言葉を詰まらせた。
「・・・負けちまったよ。」
リュウジが口を開く。
「・・・負けちまった。特異獣と戦うくらいラフな気持ちであそこにいたよ。でも全然違った。」
「先輩ごめんなさい。」
ダイが言った。
若い声が潤んでいた。
「お前のせいじゃないよ。・・・オレの油断さ。自分で自分のこと強いって思ってた。ハハッ。あいつら、多分小学生だよな。・・・5年生くらいか? ハハッ・・・。」
乾いた笑いはひしゃげていた。
沈んだ眼の底から涙があふれている。
頬を涙が撫でた。
「ホントに、ナサケナイナア。」
「先輩。」
ダイがリュウジの肩に手を回した。
昔からの友人同士だとカイトは記憶している。
友人・・・。
・・・・・・。
もしヒナタがいれば、
「ヒナタがいれば、勝ってたのかな・・・。」
リュウジが言った。
カイトは鼻を啜った。
鼻をつまんで誤魔化す。
控室内が暗い。
「カガミハラさんのところに行ってくる。」
そう言って、カイトは外に逃げ出した。
カガミハラの下へ向かわなくてなならないのは本当だった。
だがカイトはそれを利用した。
カガミハラのいる指揮室へ向かう道中、彼はそのことについて自問していた。
やがて指揮室の扉に到着した。
もともと2階会議室だったそれの、重たい引き戸に4回ノックする。
「失礼します。」
ガラガラと音を立てて戸を牽いた。
中はまさしく指揮室らしい、コンピューターや大画面などで壁を覆われていて、外見からは予想もつかないほど最先端な設備を整えている。
「カガミハラさん。」
「ああ、カイトか。」
「作戦指揮、お疲れ様です。今後の方針を伺いにまいりました。」
「ああ、・・・わかった。こっちへ。」
そう言ってカガミハラはカイトを室内中央の大きな長方形のテーブルに誘導した。
面に液晶パネルが仕込まれており、そこに今後の計画が映された。
「2つの計画を同時進行する。一つは本目標のメンバーの分析。場所の追跡、特異性の暴露、メンバー構成、過去の解析などの調査だ。もう一つはヒュウガヒナタの捜索。おそらく彼がいなければ、彼らに勝てない。」
それにはカイトも同感だった。
だがなぜかそのセリフがカイトの胸を詰まらせていた。
「ヒナタの場所の目星はついてるんですか?」
「一応ある。前提に彼がこの世界とは違う同一の世界にとらわれていることを踏まえてだが、」
理解しがたい文面だがカイトは前もってこの情報を知っていた。
「まずここのコンピューターを使った形跡がある。」
そういってカガミハラは指揮室内の機械の一つを指差した。
「そして君たちが任務を遂行していたあの施設で、微弱ながら確認された。」
それは初耳だ。
カイトが身を乗り出して問う。
「どこにいたんですか!」
「広間の水道付近だ。水道から敵目標二人が飛び出してきただろう。」
テーブルの液晶にハードロックの目元カメラが映し出された。
「SCHの研究員の見解だが、彼らのうち一人の能力は『水を介して現実と別世界を行き来する能力』だろう。おそらくヒナタは、どこかで彼らに見つかり、別世界に連れ込まれた。」
「理由は、判ってるんですか。その連れ込んだ理由は。」
「現状不明だ。だから過去の解析を急いでもらっている。」
「・・・了解です。」
「とにかく今後は『目標の調査』と『ヒナタの捜索』を行う。連絡は近くに行う。各小隊はいつも通り訓練を。」
「了解。」
カイトは指揮室を後にした。
カガミハラは指揮室の運営をスタッフに研究室へ向かった。
理科室を改造して造られてそこにはいくつものモニターで先の戦闘を眺めている研究員たちの姿があった。
中にはSHUの支援班も混ざっている。
カガミハラが声を掛けた。
「特異性は、特定できたか。」
「カガミハラさん。」
研究チームのリーダー藍葉原が答える。
「おおよそ解明はしてきています。ただ一人だけ特異性を一切使ってない者がいるので。」
「そいつ以外を教えてくれ。」
「了解しました。」
そう言ってアイハバラは印刷したてのレポートを取り出した。
モニターの戦闘映像を巻き戻す。
「まず、ペッパー団のリーダーを名乗った少年、だいきの特異性は『車の特徴を自身に投影する』能力です。彼に殴られた時のAU外骨格の損傷具合、圧殺された死体の様子から推測されます。投影できる特徴は、現時点で分かっているもので『速度』『重量』『推進力』『加速度』です。」
映像がまた巻き戻される。
「続いてえりんと呼ばれたこの少女。彼女は『周囲の物体を自身の身体に付着させて強化する』特異性を保持しています。吸着できるの物体は生物以外のものすべてと予想され、死体は吸着可能なようです。」
映像が戦闘終盤に切り替わった。
「はるきと呼ばれた、水道から飛び出してきた少年は、既に伝えた通り、『水を介して別空間に移動する』特異性です。ヒナタ君もおそらくこの能力で行方不明に。」
「ではわからない、と言ったのは。」
「はい、水から飛び出してきた、ゆうきと呼ばれる少年です。」
「見当もつかないのか。」
「まったくです。因子反応があれば少しは予想が立つのですが、彼、一度も能力を使ってないんですよね・・・。」
白衣の男女がそれぞれ唸っていた。
「とにかく現状判明している点は以上です。レポートは明日全員に配布されますので詳細はそちらに。」
「わかった。ありがとう。」
カガミハラが研究室を後にした。
ヒナタが施設に着いた頃には、現実で戦闘が終了していた。
それを知らずに、誰もいない父の職場にヒナタが入っていく。
ヒナタの頭は父親のことでいっぱいだった。
幼いころから一緒に居て、児童養護の道を教えてくれたのも間接的に父親だった。
夢を与えてくれた。
そんな父親が襲われている可能性がある。
AU外骨格で強化された脚を回して施設を散策した。
施設はまるで廃墟のようだった。
別に古いとか壊れているとか、そういった要素はないのに、人がいないだけでまったく寂れている。
一つの恐怖がヒナタを撫でた。
それを払い、見覚えのある施設の中を巡る。
戦闘が行われた広間に到着した。
ここで子供たちと遊んだ記憶を思い出す。
しかしその記憶と今見えているもので、不和が起きていた。
広間の水道が壊れている。
そこから水が噴き出していた。
水が止められないか、蛇口に近づいてみた。
蛇口が根本からへし折れている。
これは自力で修復できそうにない。
噴き出す水が少し身体に掛かりながら、水道に背を向けた。
途端に水が勢いを増して噴出し、うねりを上げてヒナタに襲い掛かった。
ヒナタにとっては避けることに造作もないような速度だったが、バンブーがその水に反応して鳴った。
過去にも同じ状況に出会った。
誰もいない世界に来る前の、畦道でだ。
つまりこの水も同じ特異性が起因している。
ヒナタは回避したことを後悔した。
大きく後退して避けた。
空気を含んで水が泡立ち白くなっている。
その白い水流の中に、4人の影が浮かんだ。
ヒナタは身構える。
水流が牽き始めた。
徐々に姿が4人の姿が露わになる。
その姿は、子供の姿をしていた。
ヒナタ反射的に武装を解除していた。
生身の姿で呆然と立っている。
水が完全に牽き、4人の少年少女がヒナタの姿を目視した。
一人の少年が声を上げる。
「あれ、ヒナ兄ちゃんじゃん!」
つづけて他の4人も口を開いた。
「ここに来たんだ。」
「お久しぶりです、ヒナ兄。」
「こんにちは。」
ヒナタは困惑していた。
見ず知らずの子供たちに名前を呼ばれ、しかも施設の子供たちにしか呼ばれないあだ名で呼ばれていたからだ。
完全に間抜けた表情で子供たちの顔を見た。
なぜだかどこかで見た覚えのある顔をしている。
「あれ? 兄ちゃん忘れたの、オレたちのこと。」
「ヒナ兄ちゃんほら、わたしだよ。えりんだよ。」
「僕ははるき。」
名前を言われヒナタは思い出した。
彼らは何季市の児童養護施設にいた子供たちだ。
ヒナタもそこで何度もボランティア活動をした経験がある。
ヒナタが一人の男の子を指差して聞いた。
「じゃあ君は、だいきくん?」
「おもいだした!?」
「で、ゆうきくんか!」
「そうだよ。お久しぶりです。」
「久しぶり! でもどうしてこんなところに。」
するとはるきが誇らしそうに言った。
「すごいでしょ! 僕の能力なんだ!」
「・・・じゃあ何季市の施設の職員さんを殺したのも。」
「オレたちだよ!」
ヒナタは、ため息をついた。
また子供たちが「特異性」に目覚めてしまった。
そして人を殺している。
彼らの過去をヒナタは知らない。
だがなんとなく、彼らが人を殺した理由を察することはできた。
「どうして殺したんだ。」
だいきが即答する。
「クソ野郎だったからさ。」
体躯の大きい少年が一息おいて、続けた。
「大人はみんなクソ野郎だ。クソみたいな両親から助けてくれたと思ったら、またクソみたいなことをしてくる。」
はるきも続けた。
「僕らの将来の為なんだ。未来にあいつらがいらなかったから・・・」
「だから殺したのか。」
ヒナタが怒気を孕んだ声を立てた。
子供たちへの怒りではない。
なにもできなかった、知らなかった自分への怒りだった。
「そうさ。それに他の施設でもオレたちと同じ奴らがいるかもしれない。もしかしたら能力を持ってるかもしれない。そいつらを救うために、施設を壊しに行くのさ。」
「・・・そう、か。」
ヒナタは俯いて息を吐いた。
そしてAUを展開する。
「ごめんみんな。俺はみんなのその気持ちがわかる。でも俺は、みんなを止めなきゃいけないんだ。」
AU外骨格がヒナタの身体を完全に覆った。
スリムな金属質のフォルムに子供たちは見覚えがあった。
「さっき戦った奴だ・・・。」
「そうか、もう戦ったのか。じゃあいい、ここでお前たちを止める。」
「ヒナ兄ちゃんも能力を持ってるの!?」
だいきが叫んだ。
ゆうきが目を見張って驚いている。
「じゃあ兄ちゃんも一回死んでるの!?」
「・・・どういう意味だ。」
「じゃあわたしたちのなかまだよ! やっぱり。」
「おい待て、死んだって・・・」
「でも兄ちゃんもあいつらの仲間みたいだよ?」
「じゃあ、どうしよう・・・。だいき?」
「んーん。・・・あ!」
ひらめきの声にヒナタは完全に構えた。
いつ、どんな攻撃が飛んでくるかわからない。
自分のできる最大限の防御の形をとった。
「ヒナ兄ちゃんさ、どうやって能力ができるか知りたいでしょ?」
「・・・ああ。」
「じゃあさ、おにごっこしようよ。」
「・・・は?」
「場所は兄ちゃんの仲間がいるところ。オレたち兄ちゃんの仲間にセンセンフコクしちゃったけど、どこにいけば兄ちゃんの仲間に会えるか知らないんだよね。だからさ、そこにいくまでに追いかけっこしようよ。いいでしょ!」
「子供たちに特異性を与える方法」が知りたい思いがヒナタの考えを安直にした。。
特異性を根絶したいという思いが。
「・・・わかった。いいよ。場所は白東中学校。遠いけどいいんだね。」
「いいよ、じゃあお兄ちゃんの仲間をぶっ殺したら、お兄ちゃんオレたちの仲間になってね?」
「え? おいそこまでいってな・・・」
「じゃあ1分後に追いかけてね。能力使っていいから。じゃあスタート!!」
4人が四方に、あっという間に逃げていった。
10秒経たない内にまた静寂が戻ってきた。
(これはもとの世界に戻るのはまだ先になりそうだな。)
そう言って残り50秒をその場で待つことになった。
彼女らに残された記憶は、「突然現れた子供に職員が一人殺された」ことだけだ。
SHU隊員のことは完全に忘れている。
もちろんその後職員らは警察に通報した。
警察も、まるで屋内で車に押しつぶされたような変死体に動揺するだろう。
おそらくそれ以上の動揺と恐怖が、合同小隊を襲っていた。
大敗を喫した彼らは、身体に刻まれた傷とともに激しい恐怖を覚えていた。
SHU設立以来初めての敗北だった。
圧倒的なパワーの前に屈した。
一撃を受けただけで立ち上がれなかった。
そのまま、死んでいたかもしれない。
なのにあの子供たちは「面白そう」という理由で隊員たちを逃し、いずれ再戦を挑んでくる。
単純な戦力差がそこにあった。
それを知り、合同小隊は絶望していた。
カガミハラでさえ焦りを覚えていた。
イーグルスのカーゴで中学校に戻り、高速治療を受けることが、苦痛だった。
恥じらいとかそういうものではない。
諦観に近い感情が隊員を覆っていた。
カイトはその絶望の空気の中に身を置いていた。
彼自身は人々の避難誘導を行っていたので、戦闘には参加していなかったが、今のこの空気から彼らの嘆きを悟っていた。
合同小隊小隊長に、同級生に話しかける。
「リュウジ。」
「カイト。」
「・・・怪我は、大丈夫?」
「ああ、ちっちゃな骨がちょっと折れてただけでさ。・・・もう治してもらったから問題ねぇよ。ハハッ・・・。」
笑みを浮かべながら応対したが、その笑いは乾いていた。
笑顔も口だけで、眼は黒く沈んでいる。
その憂鬱な横顔が、カイトの言葉を詰まらせた。
「・・・負けちまったよ。」
リュウジが口を開く。
「・・・負けちまった。特異獣と戦うくらいラフな気持ちであそこにいたよ。でも全然違った。」
「先輩ごめんなさい。」
ダイが言った。
若い声が潤んでいた。
「お前のせいじゃないよ。・・・オレの油断さ。自分で自分のこと強いって思ってた。ハハッ。あいつら、多分小学生だよな。・・・5年生くらいか? ハハッ・・・。」
乾いた笑いはひしゃげていた。
沈んだ眼の底から涙があふれている。
頬を涙が撫でた。
「ホントに、ナサケナイナア。」
「先輩。」
ダイがリュウジの肩に手を回した。
昔からの友人同士だとカイトは記憶している。
友人・・・。
・・・・・・。
もしヒナタがいれば、
「ヒナタがいれば、勝ってたのかな・・・。」
リュウジが言った。
カイトは鼻を啜った。
鼻をつまんで誤魔化す。
控室内が暗い。
「カガミハラさんのところに行ってくる。」
そう言って、カイトは外に逃げ出した。
カガミハラの下へ向かわなくてなならないのは本当だった。
だがカイトはそれを利用した。
カガミハラのいる指揮室へ向かう道中、彼はそのことについて自問していた。
やがて指揮室の扉に到着した。
もともと2階会議室だったそれの、重たい引き戸に4回ノックする。
「失礼します。」
ガラガラと音を立てて戸を牽いた。
中はまさしく指揮室らしい、コンピューターや大画面などで壁を覆われていて、外見からは予想もつかないほど最先端な設備を整えている。
「カガミハラさん。」
「ああ、カイトか。」
「作戦指揮、お疲れ様です。今後の方針を伺いにまいりました。」
「ああ、・・・わかった。こっちへ。」
そう言ってカガミハラはカイトを室内中央の大きな長方形のテーブルに誘導した。
面に液晶パネルが仕込まれており、そこに今後の計画が映された。
「2つの計画を同時進行する。一つは本目標のメンバーの分析。場所の追跡、特異性の暴露、メンバー構成、過去の解析などの調査だ。もう一つはヒュウガヒナタの捜索。おそらく彼がいなければ、彼らに勝てない。」
それにはカイトも同感だった。
だがなぜかそのセリフがカイトの胸を詰まらせていた。
「ヒナタの場所の目星はついてるんですか?」
「一応ある。前提に彼がこの世界とは違う同一の世界にとらわれていることを踏まえてだが、」
理解しがたい文面だがカイトは前もってこの情報を知っていた。
「まずここのコンピューターを使った形跡がある。」
そういってカガミハラは指揮室内の機械の一つを指差した。
「そして君たちが任務を遂行していたあの施設で、微弱ながら確認された。」
それは初耳だ。
カイトが身を乗り出して問う。
「どこにいたんですか!」
「広間の水道付近だ。水道から敵目標二人が飛び出してきただろう。」
テーブルの液晶にハードロックの目元カメラが映し出された。
「SCHの研究員の見解だが、彼らのうち一人の能力は『水を介して現実と別世界を行き来する能力』だろう。おそらくヒナタは、どこかで彼らに見つかり、別世界に連れ込まれた。」
「理由は、判ってるんですか。その連れ込んだ理由は。」
「現状不明だ。だから過去の解析を急いでもらっている。」
「・・・了解です。」
「とにかく今後は『目標の調査』と『ヒナタの捜索』を行う。連絡は近くに行う。各小隊はいつも通り訓練を。」
「了解。」
カイトは指揮室を後にした。
カガミハラは指揮室の運営をスタッフに研究室へ向かった。
理科室を改造して造られてそこにはいくつものモニターで先の戦闘を眺めている研究員たちの姿があった。
中にはSHUの支援班も混ざっている。
カガミハラが声を掛けた。
「特異性は、特定できたか。」
「カガミハラさん。」
研究チームのリーダー藍葉原が答える。
「おおよそ解明はしてきています。ただ一人だけ特異性を一切使ってない者がいるので。」
「そいつ以外を教えてくれ。」
「了解しました。」
そう言ってアイハバラは印刷したてのレポートを取り出した。
モニターの戦闘映像を巻き戻す。
「まず、ペッパー団のリーダーを名乗った少年、だいきの特異性は『車の特徴を自身に投影する』能力です。彼に殴られた時のAU外骨格の損傷具合、圧殺された死体の様子から推測されます。投影できる特徴は、現時点で分かっているもので『速度』『重量』『推進力』『加速度』です。」
映像がまた巻き戻される。
「続いてえりんと呼ばれたこの少女。彼女は『周囲の物体を自身の身体に付着させて強化する』特異性を保持しています。吸着できるの物体は生物以外のものすべてと予想され、死体は吸着可能なようです。」
映像が戦闘終盤に切り替わった。
「はるきと呼ばれた、水道から飛び出してきた少年は、既に伝えた通り、『水を介して別空間に移動する』特異性です。ヒナタ君もおそらくこの能力で行方不明に。」
「ではわからない、と言ったのは。」
「はい、水から飛び出してきた、ゆうきと呼ばれる少年です。」
「見当もつかないのか。」
「まったくです。因子反応があれば少しは予想が立つのですが、彼、一度も能力を使ってないんですよね・・・。」
白衣の男女がそれぞれ唸っていた。
「とにかく現状判明している点は以上です。レポートは明日全員に配布されますので詳細はそちらに。」
「わかった。ありがとう。」
カガミハラが研究室を後にした。
ヒナタが施設に着いた頃には、現実で戦闘が終了していた。
それを知らずに、誰もいない父の職場にヒナタが入っていく。
ヒナタの頭は父親のことでいっぱいだった。
幼いころから一緒に居て、児童養護の道を教えてくれたのも間接的に父親だった。
夢を与えてくれた。
そんな父親が襲われている可能性がある。
AU外骨格で強化された脚を回して施設を散策した。
施設はまるで廃墟のようだった。
別に古いとか壊れているとか、そういった要素はないのに、人がいないだけでまったく寂れている。
一つの恐怖がヒナタを撫でた。
それを払い、見覚えのある施設の中を巡る。
戦闘が行われた広間に到着した。
ここで子供たちと遊んだ記憶を思い出す。
しかしその記憶と今見えているもので、不和が起きていた。
広間の水道が壊れている。
そこから水が噴き出していた。
水が止められないか、蛇口に近づいてみた。
蛇口が根本からへし折れている。
これは自力で修復できそうにない。
噴き出す水が少し身体に掛かりながら、水道に背を向けた。
途端に水が勢いを増して噴出し、うねりを上げてヒナタに襲い掛かった。
ヒナタにとっては避けることに造作もないような速度だったが、バンブーがその水に反応して鳴った。
過去にも同じ状況に出会った。
誰もいない世界に来る前の、畦道でだ。
つまりこの水も同じ特異性が起因している。
ヒナタは回避したことを後悔した。
大きく後退して避けた。
空気を含んで水が泡立ち白くなっている。
その白い水流の中に、4人の影が浮かんだ。
ヒナタは身構える。
水流が牽き始めた。
徐々に姿が4人の姿が露わになる。
その姿は、子供の姿をしていた。
ヒナタ反射的に武装を解除していた。
生身の姿で呆然と立っている。
水が完全に牽き、4人の少年少女がヒナタの姿を目視した。
一人の少年が声を上げる。
「あれ、ヒナ兄ちゃんじゃん!」
つづけて他の4人も口を開いた。
「ここに来たんだ。」
「お久しぶりです、ヒナ兄。」
「こんにちは。」
ヒナタは困惑していた。
見ず知らずの子供たちに名前を呼ばれ、しかも施設の子供たちにしか呼ばれないあだ名で呼ばれていたからだ。
完全に間抜けた表情で子供たちの顔を見た。
なぜだかどこかで見た覚えのある顔をしている。
「あれ? 兄ちゃん忘れたの、オレたちのこと。」
「ヒナ兄ちゃんほら、わたしだよ。えりんだよ。」
「僕ははるき。」
名前を言われヒナタは思い出した。
彼らは何季市の児童養護施設にいた子供たちだ。
ヒナタもそこで何度もボランティア活動をした経験がある。
ヒナタが一人の男の子を指差して聞いた。
「じゃあ君は、だいきくん?」
「おもいだした!?」
「で、ゆうきくんか!」
「そうだよ。お久しぶりです。」
「久しぶり! でもどうしてこんなところに。」
するとはるきが誇らしそうに言った。
「すごいでしょ! 僕の能力なんだ!」
「・・・じゃあ何季市の施設の職員さんを殺したのも。」
「オレたちだよ!」
ヒナタは、ため息をついた。
また子供たちが「特異性」に目覚めてしまった。
そして人を殺している。
彼らの過去をヒナタは知らない。
だがなんとなく、彼らが人を殺した理由を察することはできた。
「どうして殺したんだ。」
だいきが即答する。
「クソ野郎だったからさ。」
体躯の大きい少年が一息おいて、続けた。
「大人はみんなクソ野郎だ。クソみたいな両親から助けてくれたと思ったら、またクソみたいなことをしてくる。」
はるきも続けた。
「僕らの将来の為なんだ。未来にあいつらがいらなかったから・・・」
「だから殺したのか。」
ヒナタが怒気を孕んだ声を立てた。
子供たちへの怒りではない。
なにもできなかった、知らなかった自分への怒りだった。
「そうさ。それに他の施設でもオレたちと同じ奴らがいるかもしれない。もしかしたら能力を持ってるかもしれない。そいつらを救うために、施設を壊しに行くのさ。」
「・・・そう、か。」
ヒナタは俯いて息を吐いた。
そしてAUを展開する。
「ごめんみんな。俺はみんなのその気持ちがわかる。でも俺は、みんなを止めなきゃいけないんだ。」
AU外骨格がヒナタの身体を完全に覆った。
スリムな金属質のフォルムに子供たちは見覚えがあった。
「さっき戦った奴だ・・・。」
「そうか、もう戦ったのか。じゃあいい、ここでお前たちを止める。」
「ヒナ兄ちゃんも能力を持ってるの!?」
だいきが叫んだ。
ゆうきが目を見張って驚いている。
「じゃあ兄ちゃんも一回死んでるの!?」
「・・・どういう意味だ。」
「じゃあわたしたちのなかまだよ! やっぱり。」
「おい待て、死んだって・・・」
「でも兄ちゃんもあいつらの仲間みたいだよ?」
「じゃあ、どうしよう・・・。だいき?」
「んーん。・・・あ!」
ひらめきの声にヒナタは完全に構えた。
いつ、どんな攻撃が飛んでくるかわからない。
自分のできる最大限の防御の形をとった。
「ヒナ兄ちゃんさ、どうやって能力ができるか知りたいでしょ?」
「・・・ああ。」
「じゃあさ、おにごっこしようよ。」
「・・・は?」
「場所は兄ちゃんの仲間がいるところ。オレたち兄ちゃんの仲間にセンセンフコクしちゃったけど、どこにいけば兄ちゃんの仲間に会えるか知らないんだよね。だからさ、そこにいくまでに追いかけっこしようよ。いいでしょ!」
「子供たちに特異性を与える方法」が知りたい思いがヒナタの考えを安直にした。。
特異性を根絶したいという思いが。
「・・・わかった。いいよ。場所は白東中学校。遠いけどいいんだね。」
「いいよ、じゃあお兄ちゃんの仲間をぶっ殺したら、お兄ちゃんオレたちの仲間になってね?」
「え? おいそこまでいってな・・・」
「じゃあ1分後に追いかけてね。能力使っていいから。じゃあスタート!!」
4人が四方に、あっという間に逃げていった。
10秒経たない内にまた静寂が戻ってきた。
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