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【Memory_2】
17.痛み
しおりを挟む沢山の氷の槍で体の皮膚を裂かれた少女の体は、目も当てられないくらい血が流れ、服も血の色に染まっていた。
苦しい状態だろうに俺にかけられている結界は緩むことなどなく、ヨロヨロの彼女を抱きしめる事も出来ない。
「ミコト、私ね。
初めて本気で守りたいって思えたの。
救世主様よりも、だよ?…本当だよ。
だから生きて欲しい。私の分も。」
「ううん。ううん…俺の事なんて守らなくて良かったのに…!」
「……できな…いよ、」
「とうとう力尽きたようね!死に損ないは今度こそ死になさい!」
「言ったで…しょ。使っちゃダメって…」
一瞬。ほんの一瞬攻撃が止んだ隙を狙ってリリィは女に魔法をかけていた。
死ねと言う言葉に反応するようになっていたのか、女の周りを障壁が囲っていくのが俺の目でも見える。
「え?」
女は状況も理解できないまま、急に身動きが取れなくなっていた。
結界に触れていたはずの俺は体勢を崩し雪に顔から突っ込んだ。
顔を上げると、俺の結界が向こうに移ったことを瞬時に理解した。
「リリィ、もう動くな!」
俺の姿を見て気が緩んだのか、足元から崩れたリリィを雪に捕られる前に腕を優しく引き、抱き寄せた。
もう立つ事も苦しいのか、少し不服そうながらも大人しく俺に体を預けてくれた。
最初から女に結界を張り動きを止める事も出来ただろうに、それをしなかったのは俺のせいだろう。
「げほっ…ミコト…、____顔、もう少し下げて?」
「ん?どうした?」
か細い、白雪のような細い指。
その指に鮮やかな赤い血が滴っている。
もう温もりさえ感じない程冷えてしまったその指を俺の顔に滑らした。
俺が顔を下げた瞬間に、乾燥したお互いの唇が触れた。
「………えっ!?!?!?」
突然の事に反応を取るのが遅れてしまった。
顔の体温だけが一気に紅潮していくのが自分でも分かる。
それだけでここ一帯の雪は溶かせるんじゃ無いかとさえ自惚れる。
触れるだけだったが、確かにお互いの気持ちが繋がっている事が確認できた。
「誰かを好きなるって、こんな気持ちなのね。」
「…リリィ、最後みたいな事、言うなよ。」
「私を…見つけて…くれ…て、ありがとう。すきよ_____」
そう言って、腕に抱いている少女の体重が一気に乗ってくる。
体に力が入っていなく、腕も力なく降りてしまった。
俺は医者じゃないからどうにも出来ない歯痒さに苛まれた。
少なくとも、早く処置をしなければ大量出血で死んでしまう。
だが、そんな俺たちのやり取りを水を差すように大声でケラケラと笑いながら眺めている奴がいた。
「ねえ、もう魔法解けたぁ?いい気味ね、黙って見ててあげたけど泥棒猫にはお似合いの死に様よ」
恐らく、気を失ってしまったから魔法の効力も消えてしまったのだろう。
本当は対峙なんてしたくないし構っている暇もない。
「お前には本当に人間の心が理解出来ないみたいだな、ストーカー女!」
あからさまに嘲笑う姿が、無性に腹立って許せなくて。
優しくリリィを柔らかい雪の上に寝かせた。
こいつを撃退しない事には病院に連れて行くのはおろか、俺も生きているかわからない。
「分かるわけないじゃない?人間じゃないもの」
「やっぱり…お前が、この国の精霊なのか」
「当たりよ。だからレイトに近付く女みんな許せないの。」
さも当たり前の様にあっけらかんとしていた。
人間の気持ちなんて一度も考えた事がないのだと判断するのは今の言葉だけで十分だった。
「そうか、お前が…お前が、全部悪いんだな!!」
頭の中では敵う相手ではないのはわかっているが、感情に動かされるまま、俺は地面に刺さっている氷の槍を強引に抜いて構えた。
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