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【Memory_2】
15.“あいつ”
しおりを挟む初めて出した大声。
少し声が裏返って半音高い声。
喉が、少しだけ痛んだ。
そんな事、気にはしていられなかった。
リリィの声を聞いた俺は、御構い無しに彼女が全てを発し切る前に言葉を遮った。
この状況で、リリィが来るのは完全に想定外だし、その結果どうなるのかもわからない。
だが、お互いに張り詰めていた緊張の糸が切れるような音がした感覚はある。
リリィが顔を出しいた瞬間、相手の顔色が変わって思い切り目をかっ開いたのだ。
「…女?なんで女がいるのねえなんでレイトは!?」
「だからいないって言ってんだろ!!」
「嘘よ!!!なんで嘘つくのよ!居るじゃない!隠してるんじゃない!辞めてよ意地悪しないでよ!」
さっきからこの押し問答ばかりだが、いよいよ相手も考える事を放棄した様で、大声で叫びながら泣き始めた。
なんて情緒不安定。と呆れることしか俺には出来ない状況下。
「__………る……な……つ……く………」
両手で口を覆い、声を殺しながら怯えているリリィを気にしつつ警戒態勢を強める。
様子を見るために俺が黙るとブツブツとしきりに何か独り言を繰り返していた。
「………そうだ、この女が悪いんだ
この女がレイトを誑かしたからだそうだレイトは悪くないこの女が悪い全部全部全部…!!!」
「おい、人の話を聞いて無かったのか!!」
「うるさい!レイトを返して、この泥棒猫!!!」
女の甲高い声が耳鳴りの様に頭に響く。
そして容赦もなく氷が混じった吹雪の様な気体を体の周りに発生させた。
対象はもちろん俺ではなくリリィなのも、察しがついていた。
運動能力の悪い俺が、よく咄嗟に反応できたもんだと褒めて欲しい。
「ミコト!!」
「…チッ」
「そこから動くな!!大丈夫だから…」
俺はリリィへ向けられた殺意の形、変な気体の進行方向に飛んで足に直に浴びてやった。
不服そうに舌打ちをしている女を睨む余力はまだあるが、実は内心とても焦っていた。
まるで壊死した時みたいに足の温度が奪われていく。
懐かしいが、思い出したくもなかった様な感覚。
足が動かなくなるんじゃないかと怖くなった。
それでも、無理矢理足を動かさなければいけない理由があった。
「カッコつけてんじゃないわよ!」
「お前はいい加減落ち着け!!」
リリィから俺に変わった殺意は、何度も俺に目標を定めて放ってくる。
間一髪のところで何度も避けるが、この寒さの中でいい加減体力が限界だ。
そもそもなんでこの女はこんなに怒って敵意を向けてくるのだろうか。
しきりにレイトの名前を連呼しているが、もしかしてレイトを追って来たのか?
そんな僅かな手掛かりで来るなんて、犬並みの嗅覚だ。
____待てよ。
思い出せ、俺は何か忘れていたんじゃないか?
レイトが来た日、まだ1週間前だ思い出せる。
奴は旅に出ていて、家に来てリリィに加護を分けてもらって俺はそれを見ていて…。
だめだ、変な記憶しか出てこない。
『使役しなきゃいけない精霊と相性が悪くて。』
『せいぜいあいつに、見つからないようにな。』
レイトは、存在を認知していた?
こうなる事も、全部分かっていた?
もしかして世界を救うには____
「 だめッ!!ミコト!!!!!! 」
考え事をしていたからだろうか。
リリィの声に思考の世界から引き摺り出された俺の目の前に広がっていたのは大量の氷の礫…槍に近いものの切っ尖だった。
目に見えるものの全てが、スローモーションで広がっていた。
不謹慎かもしれないが氷がキラキラと輝いて言葉にできないほど、綺麗だった。
「死になさい!!」
あれだ、漫画でもよくある。
主人公に目覚めた力がとかそんな話は稀有過ぎる。
レイトが急に頭に浮かんだのだって、もしかしたら走馬灯のようなものだったのかもしれない。
俺にはわかる。こう言う時は大体、本気で死ぬ時だ。
ごめん。リリィ。
俺の冒険の書はここで終わりみたいだ。
_____最後に泣いているリリィを見ると、ゆっくりと眼を瞑った。
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