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【Memory_1】君と共に
8.改めまして
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「もう!案外冗談好きなの?」
「かもね。リリィの困った顔案外好きかも」
「…怒るよ?」
頬を膨らませてみせた姿はとても可愛らしかった。
和やかな雰囲気が、とても心地よかった。
「あ!自己紹介してない!」
何を言うかと思えば、今更そんなことを言われて拍子抜けた。
言われてみれば、俺たちはお互いに名前しか知らないが…。
「自己紹介をする前に泣き出したのはそっちだろ…」
「泣かせたミコトが悪い!」
「俺のせいかよ…。」
当たり前と言わんばかりに勝ち誇ったような顔をしているが、俺は何も悪くない。
俺の目の前で黒基調のスカートをお嬢様らしく持ち上げ少しだけ腰を低めていた。
それはまるで、お嬢様が挨拶をするときのようでつい目を奪われかけた。
「遅れてごめんなさい。
私の名前はリリィ・ナカルー。この教会の聖女として日々修業中です。
年齢は16歳。趣味は料理。スリーサイズは上から…」
「待った!待った充分わかったから!」
「以前夏の国の方が自己紹介はスリーサイズもするべき、と仰っていたよ?」
「普通は自己紹介にスリーサイズなんて言わないから…ここにきたみんなに言ったの?」
「自己紹介するのはミコトが初めてよ!」
「だから聞いとく?」と付け加えた少女に溜息しか出なかった。
「なんで16歳の子のスリーサイズを俺が聞いても何にもならないから…」
「もしかして…」
「なんだよ」
「ミコトって“むっつり助平”?」
口に含んでいた紅茶を、吹き出してしまう所だった。
最近の子は、どこからそんな言葉を覚えてくるんだろうか。
「俺はむっつりでもオープンでもないから…!!」
「そうなの?残念。」
何を残念がられたのか全くわからない。
知らないうちに貶されたみたいでちょっと切ない気もする。
「俺は、萩生命。
俺がいた日本では、命って字を書く。リリィの大切にしなさいって言うやつね。」
「なんて素敵な名前なの…!」
気を取直して自己紹介をすると、間髪挟まずに甲高い声が聞こえてきた。
発生源は探すまでもなく、リリィだった。
聖女と名乗るくらいなのだから、そこらへんに関してとても思う所があるのだろうか。
名前を名乗っただけなのに感極まった様子で見つめられてしまう。
「あー…そうだな、趣味は編み物。身長は175㎝。こう見えて体が弱い。」
「そんなの見なくてもわかるわ。ひょろひょろだもの。」
「やっぱりちょっと酷くない?」
「編み物が好きなのは意外ね!私細かい作業苦手なの!」
「それは見てたらわかるな…。」
「失礼じゃない!?今日の晩御飯抜きにするよー!?」
「それだけは勘弁して…!」
しょうもないやりとりを言いながら笑いあった。
2人でご飯の用意もし、暖かいパンとシチューを食べた。
賑やかで、笑いが絶えなくて、ひとりぼっちじゃない。
正直、まだ彼女に心を許すことはできなかった。
知らない土地で、快く助けてくれたのには本当に感謝している。
あの涙も嘘じゃないと心から思いたい。
だけど、今日眠りについて明日国に報告でもされたらどうしようと言う思いが消えない。
救世主を助ける立場であれば、国の重鎮からそう離れていない関係値にあるんじゃないかと勘ぐってしまう。
大切な存在にまでなって、失うのなんてもう沢山だ。
リリィに詳しい事は言って無いし言うつもりも無いが、俺は自分の世界に居場所がない。
入院しているのも、父の知り合いが病院長で俺の病気が珍しい症例だから仕方なくと言うだけだ。
それ以外に、俺に価値なんて無い。
だから、死ねると聞いて本当は心底嬉しかった。
それと同時に、死ぬのが怖くなった。その気持ちは紛れも無い本物なのに。
「……ミコト?疲れたね、お風呂沸かしたよ」
「ごめん、ありがとう。」
「明日は何をしようか?」
「んー、美味しいご飯を、作ってほしいな。」
「かもね。リリィの困った顔案外好きかも」
「…怒るよ?」
頬を膨らませてみせた姿はとても可愛らしかった。
和やかな雰囲気が、とても心地よかった。
「あ!自己紹介してない!」
何を言うかと思えば、今更そんなことを言われて拍子抜けた。
言われてみれば、俺たちはお互いに名前しか知らないが…。
「自己紹介をする前に泣き出したのはそっちだろ…」
「泣かせたミコトが悪い!」
「俺のせいかよ…。」
当たり前と言わんばかりに勝ち誇ったような顔をしているが、俺は何も悪くない。
俺の目の前で黒基調のスカートをお嬢様らしく持ち上げ少しだけ腰を低めていた。
それはまるで、お嬢様が挨拶をするときのようでつい目を奪われかけた。
「遅れてごめんなさい。
私の名前はリリィ・ナカルー。この教会の聖女として日々修業中です。
年齢は16歳。趣味は料理。スリーサイズは上から…」
「待った!待った充分わかったから!」
「以前夏の国の方が自己紹介はスリーサイズもするべき、と仰っていたよ?」
「普通は自己紹介にスリーサイズなんて言わないから…ここにきたみんなに言ったの?」
「自己紹介するのはミコトが初めてよ!」
「だから聞いとく?」と付け加えた少女に溜息しか出なかった。
「なんで16歳の子のスリーサイズを俺が聞いても何にもならないから…」
「もしかして…」
「なんだよ」
「ミコトって“むっつり助平”?」
口に含んでいた紅茶を、吹き出してしまう所だった。
最近の子は、どこからそんな言葉を覚えてくるんだろうか。
「俺はむっつりでもオープンでもないから…!!」
「そうなの?残念。」
何を残念がられたのか全くわからない。
知らないうちに貶されたみたいでちょっと切ない気もする。
「俺は、萩生命。
俺がいた日本では、命って字を書く。リリィの大切にしなさいって言うやつね。」
「なんて素敵な名前なの…!」
気を取直して自己紹介をすると、間髪挟まずに甲高い声が聞こえてきた。
発生源は探すまでもなく、リリィだった。
聖女と名乗るくらいなのだから、そこらへんに関してとても思う所があるのだろうか。
名前を名乗っただけなのに感極まった様子で見つめられてしまう。
「あー…そうだな、趣味は編み物。身長は175㎝。こう見えて体が弱い。」
「そんなの見なくてもわかるわ。ひょろひょろだもの。」
「やっぱりちょっと酷くない?」
「編み物が好きなのは意外ね!私細かい作業苦手なの!」
「それは見てたらわかるな…。」
「失礼じゃない!?今日の晩御飯抜きにするよー!?」
「それだけは勘弁して…!」
しょうもないやりとりを言いながら笑いあった。
2人でご飯の用意もし、暖かいパンとシチューを食べた。
賑やかで、笑いが絶えなくて、ひとりぼっちじゃない。
正直、まだ彼女に心を許すことはできなかった。
知らない土地で、快く助けてくれたのには本当に感謝している。
あの涙も嘘じゃないと心から思いたい。
だけど、今日眠りについて明日国に報告でもされたらどうしようと言う思いが消えない。
救世主を助ける立場であれば、国の重鎮からそう離れていない関係値にあるんじゃないかと勘ぐってしまう。
大切な存在にまでなって、失うのなんてもう沢山だ。
リリィに詳しい事は言って無いし言うつもりも無いが、俺は自分の世界に居場所がない。
入院しているのも、父の知り合いが病院長で俺の病気が珍しい症例だから仕方なくと言うだけだ。
それ以外に、俺に価値なんて無い。
だから、死ねると聞いて本当は心底嬉しかった。
それと同時に、死ぬのが怖くなった。その気持ちは紛れも無い本物なのに。
「……ミコト?疲れたね、お風呂沸かしたよ」
「ごめん、ありがとう。」
「明日は何をしようか?」
「んー、美味しいご飯を、作ってほしいな。」
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