9 / 18
【Memory_1】君と共に
9.再会
しおりを挟むあの日から1ヶ月と8日が経過した。
どうやら俺とリリィが出会ったのが冬の終わりかけだったらしい。
季節の変わり目で特段寒い時期に出会ったから、てっきり冬だと勘違いしていた。
そんなに月日が経てば、いい加減異世界の自給自足生活にも大分慣れてきた所だ。
あれから、悪夢かと言うくらいに繰り返されてきた夢は、なぜかピタリと見なくなった。
最近では朝まで熟睡でき、寝坊することも…しばしば。
毎朝起きるたびに、自分が生きている事を何度も再確認する。
もしかしたら死後の世界かもしれない、なんて事を思ったり。
どう言うことか、俺の余命は日に日に伸びつつある。
死ぬ死ぬ詐欺は、あまりにも酷い。
そんな俺は今、2人が出会った森の奥のさらに奥地。
春になったら必ず来ると言うリリィの秘密の場所へ案内してもらっている最中。
この世界には珍しい色の花や果物が多く、食用かどうかすらも分からない。
自給自足生活の難点だろうが、毎日持ち帰っては食用か否かで2人で頭を悩ませたりしている。
そんな生活も、案外悪くないと思っている。
「着いたよ!ミコト!」
草木を掻き分け陽の光と共に目に広がった世界は、とても綺麗で、どこか既視感があった。
“そこは緑が生い茂る綺麗な場所で…、”
忘れていた記憶が、急にフラッシュバックした。
最近見ないと思った夢。今思い出せば、ここの場所にそっくりな気がする。
「ミコトもこっちおいでよ!」
リリィは、目の前の花畑の真ん中に座りこちらを振り向いた。
金色の髪を揺らしながら大量の丸くて白い小さな花と、大きな黄色の花を開かせている茎の束を抱きしめ、笑った。
今まで以上に、屈託のない笑顔を向けて俺の名前を呼んでいる。
俺は、少し面倒くさそうに手をヒラヒラとさせて肩を竦める仕草をした。
照れ隠し、と言うやつか。夢で見ていた光景まんまが、目の前に広がっている。
来ない事に痺れを切らしたのか、頬を沢山に膨らまして俺の手をやや強めの力で引っ張ってくる。
彼女の蒼い双眸は、惜しみなく俺の顔を映して少し拗ねたようにくりくりで大きな瞳を細めた。
その仕草そのものが愛らしくみえて、頬が緩んでしまう。
陽の光を沢山浴びて笑う彼女は俺の目にはとても眩しかった。
この笑顔を曇らせたくない。ずっと守ってあげなきゃって、そう思えるほどに。
出来る事なら笑顔で輝くそんな君をずっと見ていたいとさえ、本気で思った。
“沢山の黄色い花が咲く花畑で、
花にも負けない、綺麗な金色の髪をしてサファイアの瞳の女の子が俺を見て笑いかけてくれる”
余りにも、驚きすぎて、込み上げてくるのは笑いと、安堵と涙。
「あーーー。そっか。うん。」
「綺麗すぎて言葉も出ない?」
「……そうだな。」
「変なの!」
_____夢を、見ていた。
この世界に来るまで、ずっと一緒の夢を見ていた。
あの時に感じたこの気持ちは、おかしくなかった。
訴えかけられていたのは、正真正銘この気持ちだった。
「リリィ」
「なぁに?」
「君を守るよ、ずっと。」
「やだ、どうしたの?」
「どうもしてないよ。」
この1ヶ月間、救世主のことについてずっと考えていた。
急に異世界に来た俺は救世主と呼ばれ、もしかしたら世界を救う資格があるかもしれなかったり、しれなかったり。
選択する機会ならこの1ヶ月間沢山あったんだろう。
この家を離れて首都に行って見ても良かった、救世主と名乗りを上げて見て国民の反応を見れば良かった。
でも俺は5人目の救世主の扱いで。
誰にも必要とされていないことなんて慣れている。
だけど、夢の中でただ1人、君だけは俺を求めてくれていた。
どうしようもないくらい悲しくなったのも、もしかしたらここに呼ばれていたのかもしれない。
彼女は一人でずっと頑張ってきた。
救世主もこないこんな場所で。
孤独になりたくなくて泣く日だってあった。
そんな子を置いて、どこに行く場所がある?
救世主なんて急にそんなこと言われても、俺だって困るさ。
それに、俺が必要とされていない救世主なら。
俺は世界を救うことより、聖女 リリィ・ナカリーを救いたい。
心から、そう思った。
俺に救う力なんて、勿論ないけれど。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる