聖なる祈りは届かない

浅瀬

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【Memory_1】君と共に

7.救世主

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 「…どういう事。」

 「ミコトは多分、外界から国を救ってくれる救世主何だと思う。
  だから順を追って話すけど、この国は後一年も持たないと言われている。」


 泣き止んでからは大人しくなったもので、ぽつりぽつりと自分の境遇やこの国のことを語ってくれた。
 それこそ、淹れた紅茶が冷めきる程に、話は壮大で、俺からすれば現実味がなかった。

 掻い摘めば、そもそもこの世界は四つの大陸で各四季があるらしい。
 それでと言っていたのもなんとなく察しはつく。
 だが、そうなると俺は四つの大陸に対して呼ばれる救世主にしては溢れてしまう。

 この国の寒さは年々増していき、その救世主を助ける役目がリリィに課されているらしい。
 そして、それ故に彼女はこの地に留まり続けているのだという。


 なぜならば。


 冬の救世主である人物は、ある日を境に消息不明になっているから助けようもないのだと。
 そして、救世主本人にしかこの国を救う方法がわからないという、とんでもない展開だ。

 俺からすれば出来過ぎている冗談に感じるが、いかんせん本気なのだろう。
 だから、この無駄に広い家も彼女が異常と言わんばかりに俺が居なくなるのを怖がったのも幼いなりの自己防衛と取れるだろう。

 救世主と言えども様々で、ある人は国を統べ、ある人は冬の救世主同様任を放棄したらしい。

 「実際に救世主を見るのは初めてだけど…多分そうなんじゃないかなって思うよ。
  でも、それが周りに露見すれば、世界は混乱に飲み込まれる。
  4人だから成り立ってたの。そこに1人増えたとなれば…。」

 その続きは言われなくとも察することは容易だった。
 命が狙われても、救世主不在のこの国を騒がせるかもしれない事もあり得るのだ。

 「…同郷の人間を探すなとは言えないわ。でも、異世界から来たとなれば周りの目は確実に変わる。
  辛いとは思うけど、自分を偽って生きた方がいいと思う。この家の外では。」

 「」

 「…リリィ?」

 「あ、ごめん!何でもないよ!」

 “この家の外では”と言う言葉には優しさが包まれていた。
 辛い事を話させてしまっただろうか、リリィの顔は曇ってしまった。
 明るく取り繕ってはいるが、流石にそこまで鈍い俺ではない。

 「話してくれてありがとう。俺の心配は大丈夫だからね。」

 「うん、思ったより精神が強そうで安心した。」

 そう言ってお互いに冷え切ってしまった紅茶に手を伸ばした。
 俺が思っていたよりも事態は深刻だが、帰った所で何をするわけでもない。
 通常の感覚なら理解されないだろうが、俺は無理に元の世界に帰るのはあっさりと諦めることにした。

 帰る方法も検討つかないし、暫くは彼女にお世話になるしかないだろう。
 依然、動かなくなった足が動く理由も分からないままで少し気持ちが悪い。

 「……ねえ、ミコトはこの国を救ってくれる?」

 不意に投げかけられた質問に、俺は何も答えられなかった。

 「俺は、リリィの相手をする救世主だからなあ。」

 そう、笑って返してみせた。
 しゅんとした顔をするリリィを見かねた俺は、柄にもない言葉で励ますことしかできなかったんだ。


 救世主なんて馬鹿馬鹿しい。
 第一、日本から来たとしてそんな一般人に何が出来る。
 寒さを止める方法なんて、薪を焼べるか暖房を導入するか。そんなことしかないだろう。
 いくら俺の知らない世界にきたとは言え、魔法なんてあってたまるものか。




 ____願わくば。
 もう、この世界に救世主が足りているのであれば。
 本当に君だけの救世主になりたいと思ったよ。
 
 まあ、俺に世界を救う力なんてないけれど。
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