7 / 18
【Memory_1】君と共に
7.救世主
しおりを挟む「…どういう事。」
「ミコトは多分、外界から国を救ってくれる救世主何だと思う。
だから順を追って話すけど、この国は後一年も持たないと言われている。」
泣き止んでからは大人しくなったもので、ぽつりぽつりと自分の境遇やこの国のことを語ってくれた。
それこそ、淹れた紅茶が冷めきる程に、話は壮大で、俺からすれば現実味がなかった。
掻い摘めば、そもそもこの世界は四つの大陸で各四季があるらしい。
それで冬の国と言っていたのもなんとなく察しはつく。
だが、そうなると俺は四つの大陸に対して呼ばれる救世主にしては溢れてしまう。
この国の寒さは年々増していき、その救世主を助ける役目がリリィに課されているらしい。
そして、それ故に彼女はこの地に留まり続けているのだという。
なぜならば。
冬の救世主である人物は、ある日を境に消息不明になっているから助けようもないのだと。
そして、救世主本人にしかこの国を救う方法がわからないという、とんでもない展開だ。
俺からすれば出来過ぎている冗談に感じるが、いかんせん本気なのだろう。
だから、この無駄に広い家も彼女が異常と言わんばかりに俺が居なくなるのを怖がったのも幼いなりの自己防衛と取れるだろう。
救世主と言えども様々で、ある人は国を統べ、ある人は冬の救世主同様任を放棄したらしい。
「実際に救世主を見るのは初めてだけど…多分そうなんじゃないかなって思うよ。
でも、それが周りに露見すれば、世界は混乱に飲み込まれる。
4人だから成り立ってたの。そこに1人増えたとなれば…。」
その続きは言われなくとも察することは容易だった。
命が狙われても、救世主不在のこの国を騒がせるかもしれない事もあり得るのだ。
「…同郷の人間を探すなとは言えないわ。でも、異世界から来たとなれば周りの目は確実に変わる。
辛いとは思うけど、自分を偽って生きた方がいいと思う。この家の外では。」
「」
「…リリィ?」
「あ、ごめん!何でもないよ!」
“この家の外では”と言う言葉には優しさが包まれていた。
辛い事を話させてしまっただろうか、リリィの顔は曇ってしまった。
明るく取り繕ってはいるが、流石にそこまで鈍い俺ではない。
「話してくれてありがとう。俺の心配は大丈夫だからね。」
「うん、思ったより精神が強そうで安心した。」
そう言ってお互いに冷え切ってしまった紅茶に手を伸ばした。
俺が思っていたよりも事態は深刻だが、帰った所で何をするわけでもない。
通常の感覚なら理解されないだろうが、俺は無理に元の世界に帰るのはあっさりと諦めることにした。
帰る方法も検討つかないし、暫くは彼女にお世話になるしかないだろう。
依然、動かなくなった足が動く理由も分からないままで少し気持ちが悪い。
「……ねえ、ミコトはこの国を救ってくれる?」
不意に投げかけられた質問に、俺は何も答えられなかった。
「俺は、リリィの相手をする救世主だからなあ。」
そう、笑って返してみせた。
しゅんとした顔をするリリィを見かねた俺は、柄にもない言葉で励ますことしかできなかったんだ。
救世主なんて馬鹿馬鹿しい。
第一、日本から来たとしてそんな一般人に何が出来る。
寒さを止める方法なんて、薪を焼べるか暖房を導入するか。そんなことしかないだろう。
いくら俺の知らない世界にきたとは言え、魔法なんてあってたまるものか。
____願わくば。
もう、この世界に救世主が足りているのであれば。
本当に君だけの救世主になりたいと思ったよ。
まあ、俺に世界を救う力なんてないけれど。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる