聖なる祈りは届かない

浅瀬

文字の大きさ
上 下
4 / 18
【Memory_1】君と共に

4.君の世界

しおりを挟む
 「…に…さ。お…い…さん」
 
 目も開けていないのにどこか眩しい。
 陽の光が顔面に直接当たっているようなそんな感覚だった。
 でも、現状想像ができるのが葬式でしか無い。

 もしかして俺、火葬されてるんじゃ無いかと思うとじんわり暖かいのも気持ちが悪くなる。
 だって、今は冬なのに背中あたりも体の側面も、何故か暖かみがあるのだから。
 不思議な感覚に包まれていると、微かに聞こえていた声が大きくなってきた。
   
 「お兄さん!ねえ!こんなとこで寝たら死んじゃうよ!」
 
 「わーーーーー!!!!焼かれて死ぬ!!!!」

 夢じゃなかった!と騒ぎながら上半身を起こして起き上がろうとすると、「わっ」と声の主が声をあげた。
 視界の端で辛うじて姿を捉えた俺は咄嗟に声の主の背中に手を回した。
 誰?なんて聞く間も無く急に起き上がった俺が全面的に悪い。

 「えー…っと、迷子?」

 色んな疑問を飲み込み出たのが、方向の斜め逆とも言わんばかりの質問だった。
 どう見ても、女の子だが1人で出歩くのまだ少し危ない年齢にも見える。
 気まずいから必死に目をそらす女性経験がない俺と、急のことに驚いてるのかまじまじとこちらを見る少女。
 だが、ついに死んだ魚見たいな俺の目と、キラキラと輝くサファイア見たいな深い藍色の瞳がバッチリと合ってしまった。
 
 目があったそのわずか数秒の中の俺の頭はなんで少女に馬乗りにされているんだとか、少し生暖かいなとかしょうもない事ばっかりが駆け巡っていた。
 
 「…迷子じゃないよ。」
 
 
 

 「…。」  
 「……。」


 その言葉で、余計気まづい空気が流れる。
 迷子じゃないよって。うん、俺もそう思うよ寧ろなんでそんな質問したのか誰か怒ってくれ。

 少女と目が合いっぱなしで返答も無く数秒の時間が数分、いや数時間にも値するくらいに感じる。
 まるで合コンに参加している感覚だ。

 当の俺は参加したこともそんなシチュエーションに出会ったこともないけれど。
 もしこの場が合コン会場なら、ぜひ司会の方が自己紹介お願いしますって言い出して欲しい。
 
 俺は人見知りなんだが、気まずいのを向こうも察知したのか苦笑いかはにかみか微妙な笑顔を向けてこられた。
 


 
___嗚呼、これは俺が話題提供する側か。



 
 「俺は、命って言うんだけど…」
 
 「私はリリィ!」
 
 恥ずかしいとか緊張するとか余計な気持ちは全部捨てた。
 勇気を出して話しかけたのに、やや俺に食い込みがちで少女は名乗りを上げた。
 最初からお前から話を振ってきてくれたらどれほど楽だったか。

 そんな少女が見せた笑顔は、俺にはとても眩かった。
 にぱっと笑うアホ面の少女が、死んだ魚の俺に日差しを与えてくれた様な気がしたんだ。
 
 「…ふはっ、綺麗な名前だね。」
 
 ふと、口から出たのがその言葉だった。
 それと同時にこんなにも俺に興味を示してくれたのが面白くて自然と笑みが溢れていた。
 
 「急にそんなこと言われたら、照れるよ。」
 
 少女…もとい、リリィは少し顔を赤らめながら自分の髪を持って口元を隠した。


 彼女の髪は透き通る様な白い肌に十分くらい映える金色の髪。
 そして、少し癖毛で、ふわふわしていて、どこか犬を思い出す。
 …思い出すのは、本当に犬だけか?
 何か大切な事を忘れている気がする。
 そもそも、なんで俺がこんな緑の生い茂る場所にいるのかも謎なんだけれども。 

 「何かついてる?
  それより、早く家に帰ったほうがいいよ。
  今夜は酷く、冷え込むみたいだから。」
 
 「あっ、いや、実は…さ、恥ずかしい話なんだけど、
  目が覚めたらここにいて、ここが日本のどこかわからないんだけど何県かわかる?」

 じっと見ていると少し不機嫌そうにされてしまった。
 もちろん帰る家どころか、ここがどこかも分かるわけがない。
 返答を待っていた俺に、リリィはちょんと首を傾げていた。
 
 「ニホン?他国の地名でも聞いたことないよ。
  ここは冬を司る国、リードグレン王国だよ。」
 
 「………は?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

サイファ ~少年と舞い降りた天使~

冴條玲
ファンタジー
今、勇者でも転生者でもない町人Sが邪神と相対する――!  **――*――** みんなは、イセカイテンセイって知ってる? 僕が住むこの世界は、二柱の神様のゲームの舞台だったんだって。 世界の命運を懸けて、光と闇のテンセイシャが試練を与えられて、僕はそのど真ん中で巻き込まれていたらしいんだけど。 僕がそれを知ることは、死ぬまで、なかったんだ。 知らないうちに、僕が二つの世界を救ってたなんてことも。 だけど、僕にとって大切なことは、僕のただ一人の女の子が、死が二人をわかつまで、ずっと、幸せそうな笑顔で僕の傍にいてくれたということ。 愛しい人達を、僕もまた助けてもらいながら、きちんと守れたということ。 僕は、みんな、大好きだったから。 たとえ、僕が町人Sっていう、モブキャラにすぎなかったとしても。 僕はこの世界に生まれて、みんなに出会えて、幸せだったし、楽しかったよ。 もしかしたら、あなたも、知らないうちに神様のゲームに巻き込まれて、知らないうちに世界を救っているかもしれないね。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。

しーぼっくす。
恋愛
救世主として異世界召喚された少女、里上愛那。 神託により【運命の恋人】の相手だという王太子に暴言を吐かれ、キレた愛那は透明人間となって逃亡する。 しかし愛那の運命の相手は別の人物だった。 カクヨムさんでも連載しています。

処理中です...