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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜

渦中からの逃走×定住の勧誘

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 ――こんなところにいたのか。

 全く、相変わらず忙しない奴だ。

 少しは黙って聞け。……そう、お前に一つ、伝えたい事がある――

 ――

 アイリーネ、そしてウィロウに渦巻いていた怨嗟の霧が見る見るうちに晴れていく。

「とりあえず、上手くいったのかな……? 一時はどうなるかと思ったけど」

 余計な手を出さずに二人の経緯いきさつを見守っていたアルル。
 邪悪な気が晴れるとともに、ようやく胸をなでおろす。

(愛の力ってほんとにあるのかも? あたしにはまだ分かんないけど)

「俺、は――アイリーネ……アイリーネッ!?」

 探し求めていた最愛の存在が今確かに自分の腕の中で鼓動している。
 ウィロウはこの状況を全く呑み込めないでいた。

「大丈夫、ちょっと気絶しちゃっただけだから。さすがにあたしの治癒でも追いつけなかった……後で謝んなきゃ。それより早く逃げないと殺されちゃうよ?」

 そう、この場で呑気に話し込んでいる暇はない。
 未だ三人は大人数の臨戦寸前の兵たちに囲まれている状態なのだから。

「――そうか、俺は、好き放題暴れまわって……」

 自分の犯した罪を思い出したウィロウは葛藤に呑まれながらも逃走を図るべく大きく跳躍する。

「大丈夫大丈夫、血は流れてないから。モノは結構壊しちゃってたみたいだけど」

 そしてアルルも当初の目的を果たすべくウィロウの後ろに付いていくことにした。

 ――な、バケモノの中からヒトが……?

 ――いったい何が起こったってんだ? 戦いは、終わったのか?

 ――なあ、あの顔、どっかで見覚えないか?

 何が起こったのか分からないのは兵たちも同じ。
 しかしバケモノの中から英雄が出てきたという事実が広まるのは時間の問題だろう。

「ッ……俺はもう、英雄としては生きられない、か――」

 英雄の名を使い、英雄らしく戦い、そして生計を立てていたウィロウ。
 それに縋れなくなってしまえば生活すら危うい。

「英雄なんて肩書き、面倒なだけだし別にいいんじゃない?」

 浄化の聖女の名を国に剥奪されてなお不自由なく暮らせているアルルが言うと、これまた説得力がある。

「何故、アイリーネを――俺たちを、助けた?」

 そう、本来ならばウィロウは聖女に滅ぼされるべき邪悪な存在だったはずだ。
 少なくとも、ウィロウの知る聖女とはそういう存在だ。

「いや~実は――」

 そうしてアルルは街から脱出するまでの間、今に至った経緯や動機をウィロウに全て打ち明けた。
 ――暗に自分が魔物と手を組んでいることすらも包み隠さず。

「現在貴女は魔物と手を組んでいると、そう言っているのか? にわかには信じがたいが……」

 ウィロウは元々魔物が絶対悪だという考えは持っていない。
 どちらかと言えば、これまで幾万もの魔物を浄化してきた聖女がどのような経緯で魔物と組むことになったのかに疑問を抱いている模様。

「うん。ところで新しく住める場所探してるんだっけ。でなんだけどさ、直球だけどウチ来ない? 人並み以上の暮らしは保証できるけど」

 遂にアルルは当初の目的だったその要件をウィロウに伝える。

「……何故そんな事まで? 最初からそれが目的だったのか?」

 開口一番に図星を付かれるアルルだが、そう簡単には動じない。

「別に無理にとは言わないけど、他に宛てはあるの?」

 得意技であるいつもの追い込み漁を発動。

「……現地の様子を確認してからでも、遅くはないだろう?」

 そう言われては弱いとばかりに、ウィロウはアルルの罠にまんまと嵌まる。

「それもそっか。じゃあ一旦は付いてきてくれるってことで」

 ここまで漕ぎつければ定住は確定だろうと踏んだアルルは心の中で軽くガッツポーズ。

「――魔物と手を組む聖女、か」

 ウィロウの頭の中で疑問点が山のように積み上がる。
 しかしながらつい最近国家に反逆したウィロウはアルルに対し少なからず親近感を覚えてしまっているのも事実。
 何よりウィロウ自身も、アルルに対しては元々尊敬の念を抱いており、その上、今回二人を救った張本人でもある。
 これらの要因を考えれば、信用を買えない方が不自然と言える。

 気力、体力、魔力をそれぞれ使い果たしてしまった三人は街から少し離れた場所にある林の中で休息を取る事にした。
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