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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜
想定外の襲撃×故郷への憂い
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纏まった数の足と食料、護衛の戦力が集まった今日。
残ったバーバリフェルの住人の全てを受け入れる準備がようやく整う。
「ジゼ、こっちの準備の方は順調?」
食料を詰め込んだ馬車、仮拠点建設の素材を詰め込んだ馬車、護衛や武器防具を乗せた馬車、そして住人を乗せる為の馬車、合計500台。
後は最終確認のみだ。
「ああ。向こうの状況はテトラ率いる斥候隊が確認を急いでいる所だ。……? 何やら外が騒がしいな」
(――! この、いやな予感は……)
ドタドタと、忙しなく廊下を蹴る音――
共に、焦燥の混ざった怒鳴りにも近い声が響く。
「ジゼ様! アルル様! 敵襲です! それもかなりの規模の軍隊がバーバリフェルに乗り込んで来ています!」
「何ッ? 敵襲だと? 事前に不審な動きが無いかは入念に確認を入れた筈だが」
バーバリフェルに住む魔物の数が減れば、必然的に自衛の戦力も弱まっていく。
故にそれを補うように見張りの斥候部隊、警護部隊の人員を送り出し戦力の補完を行っていたのだ。なのにも関わらず襲撃を許してしまったらしい。
「どっから湧いて出たかは分かる? ロシェ、出るよ」
少くともヴリードル帝国からの差金で無い事は間違いないだろう、とアルルは思案する。
国側の犬だった頃に散々飼い主に噛み付き、探りを入れ続けていたアルルがそう思っているのだ、実際信憑性は高い。
アルルは外を指差し、今すぐ現地へ向かうよう指示を出す。
「それが、何も無い所から突然現れたかのような……我々も全貌は掴めておらず……申し訳御座いません」
無い穴を潜り抜けてきたかのようにその襲撃部隊は姿を表したという。
「そっか、何もないところから……うーん。それにどうやってバーバリフェルのあの場所を特定したんだろ」
千里眼や探知系の魔術については人間の世では発達が進んでいない。
人類が支配している領域範囲内ならともかく、人世から遠く離れたバーバリフェルについてまでは到底特定不可能である。
「アルル殿、何か心当たりはあるか?」
「単純に考えれば隠密部隊の仕業だろうけど……ただの人間の部隊に裏を取られる程ウチの斥候隊は無能じゃないし……」
そもそもとして、人族と魔族の間には天性の戦力差があるのだ。
地力で魔物の館の斥候部隊の裏をかくことは不可能に近い。
「うむ、違いない。しからば、他に要因があると?」
「ウチみたいに魔物と人類が手を組んでる可能性も低い。となると転移魔術の類い、あるいは隠密力を上げる効果が付与された魔道具辺りがクサいかな。場所の特定方法については正直わかんない。片付いた後で探りを入れた方がいいかも」
転移魔道具に関しては希少であるリコールストーンただ一種類しか存在しない上、一度訪れ記憶した場所のみにしか転移出来ないという制約が付いている。
転移魔術は生命エネルギーを媒体とする事で発現可能な禁術であり、人間ならば一回の発現につき約10人程の魂を要する。
「転移魔術……? 人の世では禁術とされていると聞いた覚えがあるのだが」
魔物、亜人の世には生命エネルギー無しに転移魔術を発現可能な個体もごく僅かだが存在する。
どの道、相応の対価を要する事にはなるが。
故に禁忌とはされていない。
「うん、だからその線は薄いと思う。となるとやっぱ後者の魔道具かな。でもそれもかなり生産コストが高いからポンポン使えるような物でも無い筈なんだけど」
具体的に言えば、魔術の専門家が寝る間も惜しんで一ヶ月間付きっきりで術式を組み上げなければ完成に漕ぎ着く事が出来ない。
その上、回路が焼けるまでの数回限りの使い捨てだ。
リコールストーンの例で言えば、たった一度きりで終わりの物も存在する。
「魔道具、か。魔物の世にはそのような文化が無い。故にそこら辺には疎くてな。どちらにしろ、人間を甘く見過ぎていた、ということか」
悔しみにジゼの歯ぎしりが響く。
「人間ってのは色々狡い手段で実力不足を誤魔化そうとするからね。あたしなんかその代表例だし」
アルルは腰に差さる愛刀を脇目に、自嘲するようにそう吐き捨てる。
「ともかく急ぐぞ。今日の斥候隊にはテトラも参加していてな……正直、内心気が気でないのだ」
あの日のような悲しみには、もう打たれたくない。
テトラの笑顔がジゼの心を締め付ける。
「うん、どっちみち裏を取られちゃった事には変わりない、早くテトラとみんなを助けないと」
そうしてアルルとジゼ、ロシェの三人は荷馬車を置いてファロームに直接乗り、バーバリフェルへと一直線に向かった。
残ったバーバリフェルの住人の全てを受け入れる準備がようやく整う。
「ジゼ、こっちの準備の方は順調?」
食料を詰め込んだ馬車、仮拠点建設の素材を詰め込んだ馬車、護衛や武器防具を乗せた馬車、そして住人を乗せる為の馬車、合計500台。
後は最終確認のみだ。
「ああ。向こうの状況はテトラ率いる斥候隊が確認を急いでいる所だ。……? 何やら外が騒がしいな」
(――! この、いやな予感は……)
ドタドタと、忙しなく廊下を蹴る音――
共に、焦燥の混ざった怒鳴りにも近い声が響く。
「ジゼ様! アルル様! 敵襲です! それもかなりの規模の軍隊がバーバリフェルに乗り込んで来ています!」
「何ッ? 敵襲だと? 事前に不審な動きが無いかは入念に確認を入れた筈だが」
バーバリフェルに住む魔物の数が減れば、必然的に自衛の戦力も弱まっていく。
故にそれを補うように見張りの斥候部隊、警護部隊の人員を送り出し戦力の補完を行っていたのだ。なのにも関わらず襲撃を許してしまったらしい。
「どっから湧いて出たかは分かる? ロシェ、出るよ」
少くともヴリードル帝国からの差金で無い事は間違いないだろう、とアルルは思案する。
国側の犬だった頃に散々飼い主に噛み付き、探りを入れ続けていたアルルがそう思っているのだ、実際信憑性は高い。
アルルは外を指差し、今すぐ現地へ向かうよう指示を出す。
「それが、何も無い所から突然現れたかのような……我々も全貌は掴めておらず……申し訳御座いません」
無い穴を潜り抜けてきたかのようにその襲撃部隊は姿を表したという。
「そっか、何もないところから……うーん。それにどうやってバーバリフェルのあの場所を特定したんだろ」
千里眼や探知系の魔術については人間の世では発達が進んでいない。
人類が支配している領域範囲内ならともかく、人世から遠く離れたバーバリフェルについてまでは到底特定不可能である。
「アルル殿、何か心当たりはあるか?」
「単純に考えれば隠密部隊の仕業だろうけど……ただの人間の部隊に裏を取られる程ウチの斥候隊は無能じゃないし……」
そもそもとして、人族と魔族の間には天性の戦力差があるのだ。
地力で魔物の館の斥候部隊の裏をかくことは不可能に近い。
「うむ、違いない。しからば、他に要因があると?」
「ウチみたいに魔物と人類が手を組んでる可能性も低い。となると転移魔術の類い、あるいは隠密力を上げる効果が付与された魔道具辺りがクサいかな。場所の特定方法については正直わかんない。片付いた後で探りを入れた方がいいかも」
転移魔道具に関しては希少であるリコールストーンただ一種類しか存在しない上、一度訪れ記憶した場所のみにしか転移出来ないという制約が付いている。
転移魔術は生命エネルギーを媒体とする事で発現可能な禁術であり、人間ならば一回の発現につき約10人程の魂を要する。
「転移魔術……? 人の世では禁術とされていると聞いた覚えがあるのだが」
魔物、亜人の世には生命エネルギー無しに転移魔術を発現可能な個体もごく僅かだが存在する。
どの道、相応の対価を要する事にはなるが。
故に禁忌とはされていない。
「うん、だからその線は薄いと思う。となるとやっぱ後者の魔道具かな。でもそれもかなり生産コストが高いからポンポン使えるような物でも無い筈なんだけど」
具体的に言えば、魔術の専門家が寝る間も惜しんで一ヶ月間付きっきりで術式を組み上げなければ完成に漕ぎ着く事が出来ない。
その上、回路が焼けるまでの数回限りの使い捨てだ。
リコールストーンの例で言えば、たった一度きりで終わりの物も存在する。
「魔道具、か。魔物の世にはそのような文化が無い。故にそこら辺には疎くてな。どちらにしろ、人間を甘く見過ぎていた、ということか」
悔しみにジゼの歯ぎしりが響く。
「人間ってのは色々狡い手段で実力不足を誤魔化そうとするからね。あたしなんかその代表例だし」
アルルは腰に差さる愛刀を脇目に、自嘲するようにそう吐き捨てる。
「ともかく急ぐぞ。今日の斥候隊にはテトラも参加していてな……正直、内心気が気でないのだ」
あの日のような悲しみには、もう打たれたくない。
テトラの笑顔がジゼの心を締め付ける。
「うん、どっちみち裏を取られちゃった事には変わりない、早くテトラとみんなを助けないと」
そうしてアルルとジゼ、ロシェの三人は荷馬車を置いてファロームに直接乗り、バーバリフェルへと一直線に向かった。
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