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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜
英雄の帰還×家族の愛
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「……あっ! いる、いるよ! ほら、はやくはやく!」
後ろを振り返り、勢い良く手を振るアルル。
ジゼは溢れる感情と衝動のまま一気に山頂へと駆け登ると、眼下に広がる景色に身を震わせる。
「――! ああ……我の守りたかったものは、壊れてなぞ、いなかったのか」
ジゼは呆然と立ち尽くしたまま、平和を味方に繁栄するその街を一望する。
「おおー! すごく綺麗な街並みですね! 人間の街と見紛うほどです!」
アルルの背中越しに顔を覗かせ、その景色を堪能するフィーレ。
「フィーレ? 下り終わったらおろすからね?」
流石に背負われたまま街に入るのは格好つかないでしょ。と、アルルが告げる。
山を下ると、やがて街の入り口らしき門がアルル一行に立ち塞がる。
しかしアルルとジゼは検問らしき物もなくあっさりと街の中に入ることが出来た。
思わぬ来訪に街の入り口周辺が湧き立ち、死した筈の英雄の帰還を称える賛辞が飛び交う。
「おい、お前ら、ちょ待てッ! 落ち着けッ! あああぁぁ――!?」
あっと言う間に街の住人に取り囲まれてしまったジゼが激流に揉まれるかのように奥の方へと運ばれていく。
「お姉さま、ジゼ様が流されて……」
「あー、あれは当分戻って来れないだろうね……」
そうして間もなく、息を切らしこの場に駆け付ける影が一つ。
「えっ……? もしかして、あるるん? あるるんでしょ!? わぁ! あるるんが帰ってきた!」
一人の魔物の少女がアルルの元に駆け寄り飛び付く。
「テトラ! 元気そうで安心したよ~、お父さんとお母さんは元気?」
それを受け止めたアルルがその両肩に手を乗せ尋ねる。
「うん! あるるんのおかげであれからずっと元気いっぱいなんだ!」
手を広げて見せた後、肩に乗るアルルの手を持ち上げ両手で握るテトラ。
「そっか、よかった。心のつっかえが一つとれたよ」
アルルがほっと胸をなでおろす。
「隣にいるかわいい子はあるるんのお友達?」
テトラは周囲をきょろきょろと見回していたフィーレの前に立つ。
そしてその圧力に負けたフィーレがたじろぎ――
「お姉さま、かわいい子にかわいいって言われました」
ちょいちょいとアルルの袖を引っ張る。
「この子はフィーレって言うんだ。えっと、あたしの侍女……うーん、そう、世話がかり?」
フィーレの背中に手を当て、反対の手で指を回しながら難しい問いに思考を巡らせるアルル。
「あるるんがお姫様になるってお話、ほんとだったんだ……よろしくね、フィーレ!」
そしてフィーレの両手を握り、ぶんぶんと上下に振るテトラ。
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
未だテトラのテンションに追従出来ていないフィーレがたどたどしく初対面の挨拶を交わす。
次にテトラが目に留めたのは、アルルの足元で静かにお座りをしているロシェ。
「その子、ウルフェンバイト族だよね!? こんな温厚な子初めて見た……名前はなんていうの?」
テトラはロシェの目の前に座り込むと、優しく頭を撫でる。
「この子はロシェって言うんだ。ちょっと複雑な事情があって……この子は多分特別なんだと思う」
そんな会話の中、街中から引っ張りだこにされていたジゼがようやくこの場に帰還。
しかし何やら様子がおかしい。
「な、テ、テトラ……なのか?」
手をわなわなと震えさせるジゼに今度はテトラがたじろぎ――
「あ、兄貴!? なんで生きてるの!? くたばったって聞いてたんだけど!? 確かに死体は届かなかったけどさ!」
スッ、っとアルルの影に隠れる。
「テトラ……あぁ……こんなに、元気そうで……」
テトラの目線に合わせるべく膝を付き、実の妹を胸の内へと強引に抱き寄せるジゼ。
「おいこらクソ兄貴! 気持ち悪いからあんまり引っ付くなっ!」
そしてその抱擁を引き剥がそうと腕の中で必死にもがくテトラ。
「もしかしなくても二人は知り合い……っていうか、兄妹、だったんだ」
テトラとジゼの姿をまじまじと交互に見るアルル。
言われてみれば確かに髪色も瞳の色も同じ、雰囲気も何処となく似ている、とアルルは思う。
「あるるん!? この兄貴はいったいどこの兄貴なの!?」
逃げられないと悟ったテトラがジゼの頭をポカポカと殴り始める。
「う、うーん……あたしにも分かんない」
この後散々実の妹であるテトラに気の済むまで泣き付いたジゼ。
無論テトラがその抱擁を黙って受け入れる筈も無く、ジゼの体には夥しい程のアザが残ってしまったが、本人は名誉の負傷として受け入れた模様。
後ろを振り返り、勢い良く手を振るアルル。
ジゼは溢れる感情と衝動のまま一気に山頂へと駆け登ると、眼下に広がる景色に身を震わせる。
「――! ああ……我の守りたかったものは、壊れてなぞ、いなかったのか」
ジゼは呆然と立ち尽くしたまま、平和を味方に繁栄するその街を一望する。
「おおー! すごく綺麗な街並みですね! 人間の街と見紛うほどです!」
アルルの背中越しに顔を覗かせ、その景色を堪能するフィーレ。
「フィーレ? 下り終わったらおろすからね?」
流石に背負われたまま街に入るのは格好つかないでしょ。と、アルルが告げる。
山を下ると、やがて街の入り口らしき門がアルル一行に立ち塞がる。
しかしアルルとジゼは検問らしき物もなくあっさりと街の中に入ることが出来た。
思わぬ来訪に街の入り口周辺が湧き立ち、死した筈の英雄の帰還を称える賛辞が飛び交う。
「おい、お前ら、ちょ待てッ! 落ち着けッ! あああぁぁ――!?」
あっと言う間に街の住人に取り囲まれてしまったジゼが激流に揉まれるかのように奥の方へと運ばれていく。
「お姉さま、ジゼ様が流されて……」
「あー、あれは当分戻って来れないだろうね……」
そうして間もなく、息を切らしこの場に駆け付ける影が一つ。
「えっ……? もしかして、あるるん? あるるんでしょ!? わぁ! あるるんが帰ってきた!」
一人の魔物の少女がアルルの元に駆け寄り飛び付く。
「テトラ! 元気そうで安心したよ~、お父さんとお母さんは元気?」
それを受け止めたアルルがその両肩に手を乗せ尋ねる。
「うん! あるるんのおかげであれからずっと元気いっぱいなんだ!」
手を広げて見せた後、肩に乗るアルルの手を持ち上げ両手で握るテトラ。
「そっか、よかった。心のつっかえが一つとれたよ」
アルルがほっと胸をなでおろす。
「隣にいるかわいい子はあるるんのお友達?」
テトラは周囲をきょろきょろと見回していたフィーレの前に立つ。
そしてその圧力に負けたフィーレがたじろぎ――
「お姉さま、かわいい子にかわいいって言われました」
ちょいちょいとアルルの袖を引っ張る。
「この子はフィーレって言うんだ。えっと、あたしの侍女……うーん、そう、世話がかり?」
フィーレの背中に手を当て、反対の手で指を回しながら難しい問いに思考を巡らせるアルル。
「あるるんがお姫様になるってお話、ほんとだったんだ……よろしくね、フィーレ!」
そしてフィーレの両手を握り、ぶんぶんと上下に振るテトラ。
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
未だテトラのテンションに追従出来ていないフィーレがたどたどしく初対面の挨拶を交わす。
次にテトラが目に留めたのは、アルルの足元で静かにお座りをしているロシェ。
「その子、ウルフェンバイト族だよね!? こんな温厚な子初めて見た……名前はなんていうの?」
テトラはロシェの目の前に座り込むと、優しく頭を撫でる。
「この子はロシェって言うんだ。ちょっと複雑な事情があって……この子は多分特別なんだと思う」
そんな会話の中、街中から引っ張りだこにされていたジゼがようやくこの場に帰還。
しかし何やら様子がおかしい。
「な、テ、テトラ……なのか?」
手をわなわなと震えさせるジゼに今度はテトラがたじろぎ――
「あ、兄貴!? なんで生きてるの!? くたばったって聞いてたんだけど!? 確かに死体は届かなかったけどさ!」
スッ、っとアルルの影に隠れる。
「テトラ……あぁ……こんなに、元気そうで……」
テトラの目線に合わせるべく膝を付き、実の妹を胸の内へと強引に抱き寄せるジゼ。
「おいこらクソ兄貴! 気持ち悪いからあんまり引っ付くなっ!」
そしてその抱擁を引き剥がそうと腕の中で必死にもがくテトラ。
「もしかしなくても二人は知り合い……っていうか、兄妹、だったんだ」
テトラとジゼの姿をまじまじと交互に見るアルル。
言われてみれば確かに髪色も瞳の色も同じ、雰囲気も何処となく似ている、とアルルは思う。
「あるるん!? この兄貴はいったいどこの兄貴なの!?」
逃げられないと悟ったテトラがジゼの頭をポカポカと殴り始める。
「う、うーん……あたしにも分かんない」
この後散々実の妹であるテトラに気の済むまで泣き付いたジゼ。
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