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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜

過去の追憶×世の常

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 世の常。
 それは、先人が生み出した知恵か。
 もしくは、そうありたいと願う集団心理が生み出した理想論か。
 はたまた、白昼堂々のさばるべく悪人が吐き捨てた綺麗事か。

 光差す所に闇伸びる。
 ここ、アゼルハイムも世の常、そんなしがらみに支配された街の一つである。

 そして、伸び過ぎた闇を踏み付けるように路地裏に舞い降りたのは、一人の少女。

 名を、アルルメイヤ=サリエル。

「あぁ? なんだこのガキ、迷子か?」

(……あっれぇ? ちょっと道外しただけなのに! どうしてこうなった!?)

 否、迷い込んでいる。



 ――時は遡り、三日前。
 
 ヴリードル帝国、聖女の一室、そのバルコニーにて二人の少年少女、ギルニクスとアルルが駄弁る。

「はあぁぁ……やぁっと纏まった自由期間取れたぁ……ここんとこ働き詰めでほんと死ぬかと思った」

 ティーセットが並ぶ机に突っ伏したアルルの声が籠もる。

「嘘こけ、まだまだ元気そうじゃねえか。俺はもう限界、ずっと部屋に引き籠もる」

 向かい合う椅子に逆らうように座り、背を向けるギルニクスのそんな宣言に対しアルル。

「はぁ、剣聖の名が泣けるよ、全く」

 そんな皮肉を吐き捨てる。
 当然ギルニクスがそれを黙って聞き流す筈も無く。

「お前に言われたかねぇよ!?」

 首だけをアルルの方へと向け抗議の視線を刺す。
 それを平然とした様子で真っ向から受け止めたアルル。

「ねーねー。アゼルハイムにさ、新作の甘味が出回ってるらしいんだって」

 と、外出の誘いをほのめかす。
 ギルニクスはその真意に気が付いているのかいないのか。

「で、それがどうかしたのか?」

 貫徹知らぬ振り。
 そんなギルニクスに痺れを切らしたのだろう。

「もー、つれないんだから。一緒に遊び行かない? って聞いてんの」

 アルルは、はっきりとした言葉で再び誘いを入れる。

 ギルニクスはその言葉が最後のチャンスだと理解するに及ばなかったのか。
 はたまた、ただの照れ隠しか。

「やだ」

 そう一言。
 僅かに綻ぶ口元を誤魔化すように再び顔を逸らす。
 そんなギルニクスに呆れたのだろう。

「あっそ、じゃああたし一人で行くからいいや」

 アルルはあっさりとそう言い切り席を立つ。

「おいぃ!? もうちょっと食い下がれよ!?」

 その後ろ姿を追うように慌てて席を立つギルニクスに対しアルル。

「なに、やっぱり付いてくる気になったの?」

 本当に本当の最後のチャンスを与える。

「はいはいこのギルニクスイリーガルをお供させてください聖女様」

 ギルニクスは椅子に正しく座り直し、ため息を一つ漏らす。

「一緒に来たいなら始めっから素直にそう言っとけばいいのに」

 それに連られアルルも一つため息を漏らし、席に座り直す。

「お嬢様、アゼルハイム滞在の準備を整えて参りました」

 窓際に立つバグロスの背中越しには荷造りされた衣類食類が積み上がっている。
 そこには、まるでここまでのやりとりが必然であった事を意味するかの様にギルニクスの荷物も用意されていた。

 そんなバグロスの悪ノリと全てを見透かしていたらしいアルルに対し、悔しさを感じたのだろう。

「あんたもコイツの執事なら、この国の次期お嬢様のおてんばをちょっとは窘めるとかしたらどうなんだ!?」

 ギルニクスは腰を上げ二人に抗議の視線を向ける。

 しかしバグロスはギルニクスのそんな苦言を真っ向から受け止め顔色一つ変えずに、こう言い放つ。

「私めはお嬢様の御心のままに」

 そんなバグロスの態度に半分呆れた様子のギルニクス。

「アルル、悪い事言わないからこの執事首にした方がいいぞ」

 バグロスに指の先を向けながら、机に軽く乗り出しアルルに詰め寄る。

 アルルは一瞬逡巡する素振りを見せるも、手をひらひらとさせながら以下の様に問う。

「じいやより有能な執事なんてこの世に存在するの?」

 バグロスの無表情が僅かに崩れるも、二人がそれを認識する事は無かった。

「そりゃあ……いや、うーん、うーん? ……お前の執事務まる人材とかこのじいさん以外に見つかる気がしねぇ……」

 ギルニクスは腕を組み思案するも、アルルに投げ掛けられた問いが八方塞がりであった事に気が付く。

 それに対しアルルはしたり顔で。

「でしょ?」

 と、ギルニクスにとどめを刺せば。

「恐縮で御座います、お嬢様、ギルニクス様」

 バグロスも追加でとどめを刺す。

「なんか腑に落ちねぇ!」
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