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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜
決死の救出×八方塞がり
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「ロシェ、おねがい!」
素早く移動すればするほど、波長の偽装、隠密は至難を極める。
(あー、やっぱりここら辺が限界か……)
「ま、魔物だ! 魔女が魔物を引き連れ反逆行為を働いているぞッ! ひっ捕らえろッ!」
兵士の一人が声を張り上げその指をアルルの方へと向けた。
敵意の籠もる視線が魔物に跨る一人の少女に集う。
(はぁ、やっぱりバレちゃった。それにしても魔女って……間違ってはないけど)
「ほ、本物の聖女様だ! 我々の聖女様が帰ってきたぞ!」
「し、しかしあの魔物は一体……それに魔女とは」
「聖女様の浄化による奇跡だろう? その証拠にあの魔物、人を襲う邪悪な気配が一切無い。そして魔女なんてのは言い掛かり、国の作り話だろう。惑わされるな!」
「一度失敗した程度で国外追放など、やはり国の横暴だろう! 許されるべき行為ではない!」
「聖女様のご友人を解放しろ! これは非人道的行為と言える!」
この民衆の異常なまでの聖女崇拝は妄信の域まで達している。
しかしそれも無理はない、アルルの築き上げた信用は最早この国のそれよりも高く聳えているのだから。
ヴリードル帝国には公爵に匹敵する程の大商人率いる組織が二つ存在する。
主に生活用品などの必需品を取り扱うバサラーナ協会。
食品と魔道具、骨とう品を扱うエトワール協会。
アルルは14歳の時にエトワール当主の一人娘と、とある事件を切っ掛けに知り合って以来、繋がりを密かに強めていった。
そしてバグロスが執事に就いてからというもの、益々の潤滑が施され、切っても切れない程の関係が構築されている。
商人側としても、貴重な資材を仕入れることの出来るアルルという貴重な収入源を切り離すのは例え国を敵に回そうとも惜しい程なのだ。
そして伯爵相当の商人ならば十数組ほどは存在する。
その為、武力行使を働こうものならば内戦は免れない上、国側の勝算もそれほど高いとは言えない。
「よくもウチのフィーレに傷をつけてくれたね? 顔覚えたから」
民衆の声にたじろいでいる隙を狙い、フィーレを捕らえる兵士の顔面を踏みつけ、素早くフィーレを腕に抱え込むアルル。
「お姉さま……もう! 迎えに来るのが遅すぎます! 心配したんですから」
気丈に振舞ってはいるが、その身体は強く震えている。
フィーレもアルルに似た影響か、自分の弱さをあまり表には出さない。
「それはこっちのセリフだよ!? それに来ちゃダメとか言ってたの聞こえてたんだけど!?」
「ああ言えば助けて下さると思いまして!」
フィーレは晴れやかな笑顔を無理矢理に浮かべ、アルルに強くしがみつく。
「……とりあえず思ったより元気そうで一安心かな」
サリバーロ男爵家に迷惑を掛けまいと家屋捜索が入る直前にこっそりと館から抜け出し、精いっぱい時間を稼いでいたフィーレだったが、ついにその魔の手から逃れる事は叶わず囚われの身となってしまった。
アルルの助けが来るまで逃げ延びる事が出来たのはフィーレの才能か、はたまた運の良さか。
少なくともバグロスの隠蔽工作、そしてそのどちらかが欠けていれば運命は悲惨な方向に大きく傾いていた事だろう。
「お姉さま、その子は?」
アルルを乗せているロシェに目を留めたフィーレが首を傾げる。
「この子は……あー、そう! ただの狼!」
正直に答えて無意味に怯えさせる訳にも行かず、適当な嘘で誤魔化すアルル。
「狼にしては、ちょっと大きすぎません……?」
フィーレが疑うのも無理はない。
ロシェの種族、ウルフェンバイトは模様も体格も明らかに狼のそれではない。
「いいから! 細かい事はあとあと!」
嘘が剥がれるのを危惧したアルルがフィーレの意識をロシェから逸らす。
「そ、そうですね! お姉さまの仰る通りです! ところであそこに見えるの、エールデ辺境伯とクログベイル辺境伯の兵じゃありません?」
南東から規則正しく歩を合わせ、進軍する部隊をフィーレが捉える。
エールデ辺境伯は国の南に位置する領地に勢力を固めている貴族。
そしてクログベイル辺境伯は東に位置する貴族。
どちらも聖女の存在が面白くない勢力の一つである。
「あちゃあ、あれは流石にまずいかも……どうしよっか、うーん」
アルルとて単騎では数の暴力の前には押し潰されてしまう。
そもそも杖も無い状態ではすぐさま魔力切れを起こし食い止める事すら難しい。
その上交戦を図れば無関係な民衆まで巻き込んでしまう恐れもある。
(どこから逃げれば……武器も無いから強行突破は無理だし……)
アルルは思考を巡らせながら、追手の勢いを殺せそうな入り組んだ住宅街へと逃げ込んだ。
素早く移動すればするほど、波長の偽装、隠密は至難を極める。
(あー、やっぱりここら辺が限界か……)
「ま、魔物だ! 魔女が魔物を引き連れ反逆行為を働いているぞッ! ひっ捕らえろッ!」
兵士の一人が声を張り上げその指をアルルの方へと向けた。
敵意の籠もる視線が魔物に跨る一人の少女に集う。
(はぁ、やっぱりバレちゃった。それにしても魔女って……間違ってはないけど)
「ほ、本物の聖女様だ! 我々の聖女様が帰ってきたぞ!」
「し、しかしあの魔物は一体……それに魔女とは」
「聖女様の浄化による奇跡だろう? その証拠にあの魔物、人を襲う邪悪な気配が一切無い。そして魔女なんてのは言い掛かり、国の作り話だろう。惑わされるな!」
「一度失敗した程度で国外追放など、やはり国の横暴だろう! 許されるべき行為ではない!」
「聖女様のご友人を解放しろ! これは非人道的行為と言える!」
この民衆の異常なまでの聖女崇拝は妄信の域まで達している。
しかしそれも無理はない、アルルの築き上げた信用は最早この国のそれよりも高く聳えているのだから。
ヴリードル帝国には公爵に匹敵する程の大商人率いる組織が二つ存在する。
主に生活用品などの必需品を取り扱うバサラーナ協会。
食品と魔道具、骨とう品を扱うエトワール協会。
アルルは14歳の時にエトワール当主の一人娘と、とある事件を切っ掛けに知り合って以来、繋がりを密かに強めていった。
そしてバグロスが執事に就いてからというもの、益々の潤滑が施され、切っても切れない程の関係が構築されている。
商人側としても、貴重な資材を仕入れることの出来るアルルという貴重な収入源を切り離すのは例え国を敵に回そうとも惜しい程なのだ。
そして伯爵相当の商人ならば十数組ほどは存在する。
その為、武力行使を働こうものならば内戦は免れない上、国側の勝算もそれほど高いとは言えない。
「よくもウチのフィーレに傷をつけてくれたね? 顔覚えたから」
民衆の声にたじろいでいる隙を狙い、フィーレを捕らえる兵士の顔面を踏みつけ、素早くフィーレを腕に抱え込むアルル。
「お姉さま……もう! 迎えに来るのが遅すぎます! 心配したんですから」
気丈に振舞ってはいるが、その身体は強く震えている。
フィーレもアルルに似た影響か、自分の弱さをあまり表には出さない。
「それはこっちのセリフだよ!? それに来ちゃダメとか言ってたの聞こえてたんだけど!?」
「ああ言えば助けて下さると思いまして!」
フィーレは晴れやかな笑顔を無理矢理に浮かべ、アルルに強くしがみつく。
「……とりあえず思ったより元気そうで一安心かな」
サリバーロ男爵家に迷惑を掛けまいと家屋捜索が入る直前にこっそりと館から抜け出し、精いっぱい時間を稼いでいたフィーレだったが、ついにその魔の手から逃れる事は叶わず囚われの身となってしまった。
アルルの助けが来るまで逃げ延びる事が出来たのはフィーレの才能か、はたまた運の良さか。
少なくともバグロスの隠蔽工作、そしてそのどちらかが欠けていれば運命は悲惨な方向に大きく傾いていた事だろう。
「お姉さま、その子は?」
アルルを乗せているロシェに目を留めたフィーレが首を傾げる。
「この子は……あー、そう! ただの狼!」
正直に答えて無意味に怯えさせる訳にも行かず、適当な嘘で誤魔化すアルル。
「狼にしては、ちょっと大きすぎません……?」
フィーレが疑うのも無理はない。
ロシェの種族、ウルフェンバイトは模様も体格も明らかに狼のそれではない。
「いいから! 細かい事はあとあと!」
嘘が剥がれるのを危惧したアルルがフィーレの意識をロシェから逸らす。
「そ、そうですね! お姉さまの仰る通りです! ところであそこに見えるの、エールデ辺境伯とクログベイル辺境伯の兵じゃありません?」
南東から規則正しく歩を合わせ、進軍する部隊をフィーレが捉える。
エールデ辺境伯は国の南に位置する領地に勢力を固めている貴族。
そしてクログベイル辺境伯は東に位置する貴族。
どちらも聖女の存在が面白くない勢力の一つである。
「あちゃあ、あれは流石にまずいかも……どうしよっか、うーん」
アルルとて単騎では数の暴力の前には押し潰されてしまう。
そもそも杖も無い状態ではすぐさま魔力切れを起こし食い止める事すら難しい。
その上交戦を図れば無関係な民衆まで巻き込んでしまう恐れもある。
(どこから逃げれば……武器も無いから強行突破は無理だし……)
アルルは思考を巡らせながら、追手の勢いを殺せそうな入り組んだ住宅街へと逃げ込んだ。
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