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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜
風前の灯火×復讐の炎
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「それでどうなんだ? お前に釈明の余地はあるのか?」
「何か事情がおありなんでしょう? アルル様?」
アルルに反応する気力が無いと分かった上でのこの持ち掛け。
正面からでは滅多に言い負かせない為、憂さを晴すには絶好の機会と言える。
「チッ、キーラがくれた慈悲にも応えぬとは! このッ――」
腕を勢いよく振りかぶるメルキオ。
「おやめくださいメルキオさま! わたくし、そこまでの仕打ちは望んでおりません!」
そしてすぐさま脇に抱き着き、それを窘めるキーラ。
メルキオが癇癪を起すところまで予期していたのだろう。
どこからどのように、誰の目に映ろうとも、その姿は慈悲溢れる心の優しき淑女である。
「あ、ああ……すまない、君は本当に心の優しい子だ。それに引き換えコイツは……」
アルルがメルキオの前で涙を見せた事など、ただの一度も無い。
そしていつも何処からともなく成果を持ち帰って来るアルルに、主導権を握られているかのような錯覚に陥った。
男としての矜持、自尊心を侵され、アルルに対し劣等感を抱いていた。
そして皮肉にも民衆から聖女と持て囃されているアルルに愛されていると思い込むことで、なんとか正常心を保っていたのだ。
婚約理由も、聖女という肩書に利用価値を見出していただけに過ぎない。
そこに愛と呼べる感情など一欠片も無く。
あるのは醜い劣情のみ。
そして最後、正に今この瞬間。
他の貴族連中の圧力に負け、諸々の処理が面倒になってしまったのを全てアルルの責任として一蹴し、婚約の破棄を下す事で有りもしない正当性を主張しているメルキオが存在している。
この貴族社会で、アルルは余りにも敵を作り過ぎてしまった。
不当が正当へと成り代わったのだ。
「行きましょう、メルキオ様。わたくしたちの式の準備を済ませてしまいましょう」
メルキオの腕を抱いたまま、裁判所の出口を指し示すキーラ。
「おお、そうであったな我が愛しのキーラよ。すぐにでも準備を再開するとしよう」
「わたくしキーラ、メルキオ様の伴侶に選ばれ至極光栄に御座います。ではアルル様、ご機嫌よう」
そして入れ変わるように忍び寄るもう一組の影。
やはりこちらも"作られし罪人"に唾を吐きかけようと企んでいる。
アルルの目にほんの微かな光が灯る。
希望の光ではない。
復讐に燃える、炎の光。
決して消え失せない、風前の灯火。
「あらあら、大罪人のアルルちゃんじゃない。随分と暗い顔しちゃって。とぉーってもお似合いですこと」
腰に手を当て、わざとらしくニヤつきながらアルルの顔を覗き込む一人の女。
その背には巨大な一対の弓矢が揺れている。
(あたしは、罪人なんかじゃない。ホンモノに、なりたかっただけ)
「まさか魔王にビビって尻尾巻いて逃げちまうなんてなぁ。その上、ギルまで見捨てちまうなんてよぉ」
その後ろで、一人の大柄な男が呆れた様子で肩を揺らす。
こちらの背には、巨大な一本の槌。
(逃げてなんかない。逃げたのは、あなたたちの方でしょ……あたしはギルを、見捨ててなんか、ない)
「ギルを殺したのは貴女でしょう? ……何とか言ったらどうなのよこのアバズレ女!」
今のアルルには迫り来る脚蹴りを防ぐ気力すら無い。
「あぅッ、――かはッ」
脇腹に、鈍痛が響く。
(違う、違う、あたしじゃない、あたしじゃない、のに)
「そこまで自分の命が惜しかったのか? 情けねぇこったなぁ。天国のギルも大層お前を憎んでるだろうよ」
その言葉がアルルの心に深く、鈍く突き刺さり。
(違う、惜しくなんて、ない。
ギルだって、恨んで、なんか、ない――
――
――ほんと、に?)
心の傷から漏れ出す嗚咽に震え。
「あぁぁ……ギル、ぎる……ごめんね、ごめんね……あたしのせいだ、全部、あたしの、せい……」
底の底から絶え間なく悲観が湧き出す。
(代わりにあたしが死ねばよかったんだ、そしたら、誰も不幸にならずに済んだんだ)
(なんであたし、生き残っちゃったの)
(どうしてギルは、こんなあたしの身代わりになってくれたの)
「チッ、泣けば許されるとでも思ってるのかしら? 穢らわしい」
かつての勇者仲間の一人が、吐きかけるように言い放つ。
「精々野垂れ死なんよう、意地汚く暮らすこったなぁ?」
「ガランデ、魔王討伐の会議に行くわよ。誰かさんの尻拭いをしなきゃいけないの」
「おう。勇者はツラいね、っと。誰かさんが羨ましいぜ、ったく」
やがて辺りは静寂に包まれる。
しかして、アルルの心に安らぎが訪れる事は無い。
(こんな時、ギルが居てくれたら……
ギル、どこに行っちゃったの?
早く出てきて、いつものようにあたしをからかってよ……
もう、どうでも良くなってきちゃった。
早く行こう、ギルのところに。
待ってて、ギル。
今、あたしも、そっちに――)
「何か事情がおありなんでしょう? アルル様?」
アルルに反応する気力が無いと分かった上でのこの持ち掛け。
正面からでは滅多に言い負かせない為、憂さを晴すには絶好の機会と言える。
「チッ、キーラがくれた慈悲にも応えぬとは! このッ――」
腕を勢いよく振りかぶるメルキオ。
「おやめくださいメルキオさま! わたくし、そこまでの仕打ちは望んでおりません!」
そしてすぐさま脇に抱き着き、それを窘めるキーラ。
メルキオが癇癪を起すところまで予期していたのだろう。
どこからどのように、誰の目に映ろうとも、その姿は慈悲溢れる心の優しき淑女である。
「あ、ああ……すまない、君は本当に心の優しい子だ。それに引き換えコイツは……」
アルルがメルキオの前で涙を見せた事など、ただの一度も無い。
そしていつも何処からともなく成果を持ち帰って来るアルルに、主導権を握られているかのような錯覚に陥った。
男としての矜持、自尊心を侵され、アルルに対し劣等感を抱いていた。
そして皮肉にも民衆から聖女と持て囃されているアルルに愛されていると思い込むことで、なんとか正常心を保っていたのだ。
婚約理由も、聖女という肩書に利用価値を見出していただけに過ぎない。
そこに愛と呼べる感情など一欠片も無く。
あるのは醜い劣情のみ。
そして最後、正に今この瞬間。
他の貴族連中の圧力に負け、諸々の処理が面倒になってしまったのを全てアルルの責任として一蹴し、婚約の破棄を下す事で有りもしない正当性を主張しているメルキオが存在している。
この貴族社会で、アルルは余りにも敵を作り過ぎてしまった。
不当が正当へと成り代わったのだ。
「行きましょう、メルキオ様。わたくしたちの式の準備を済ませてしまいましょう」
メルキオの腕を抱いたまま、裁判所の出口を指し示すキーラ。
「おお、そうであったな我が愛しのキーラよ。すぐにでも準備を再開するとしよう」
「わたくしキーラ、メルキオ様の伴侶に選ばれ至極光栄に御座います。ではアルル様、ご機嫌よう」
そして入れ変わるように忍び寄るもう一組の影。
やはりこちらも"作られし罪人"に唾を吐きかけようと企んでいる。
アルルの目にほんの微かな光が灯る。
希望の光ではない。
復讐に燃える、炎の光。
決して消え失せない、風前の灯火。
「あらあら、大罪人のアルルちゃんじゃない。随分と暗い顔しちゃって。とぉーってもお似合いですこと」
腰に手を当て、わざとらしくニヤつきながらアルルの顔を覗き込む一人の女。
その背には巨大な一対の弓矢が揺れている。
(あたしは、罪人なんかじゃない。ホンモノに、なりたかっただけ)
「まさか魔王にビビって尻尾巻いて逃げちまうなんてなぁ。その上、ギルまで見捨てちまうなんてよぉ」
その後ろで、一人の大柄な男が呆れた様子で肩を揺らす。
こちらの背には、巨大な一本の槌。
(逃げてなんかない。逃げたのは、あなたたちの方でしょ……あたしはギルを、見捨ててなんか、ない)
「ギルを殺したのは貴女でしょう? ……何とか言ったらどうなのよこのアバズレ女!」
今のアルルには迫り来る脚蹴りを防ぐ気力すら無い。
「あぅッ、――かはッ」
脇腹に、鈍痛が響く。
(違う、違う、あたしじゃない、あたしじゃない、のに)
「そこまで自分の命が惜しかったのか? 情けねぇこったなぁ。天国のギルも大層お前を憎んでるだろうよ」
その言葉がアルルの心に深く、鈍く突き刺さり。
(違う、惜しくなんて、ない。
ギルだって、恨んで、なんか、ない――
――
――ほんと、に?)
心の傷から漏れ出す嗚咽に震え。
「あぁぁ……ギル、ぎる……ごめんね、ごめんね……あたしのせいだ、全部、あたしの、せい……」
底の底から絶え間なく悲観が湧き出す。
(代わりにあたしが死ねばよかったんだ、そしたら、誰も不幸にならずに済んだんだ)
(なんであたし、生き残っちゃったの)
(どうしてギルは、こんなあたしの身代わりになってくれたの)
「チッ、泣けば許されるとでも思ってるのかしら? 穢らわしい」
かつての勇者仲間の一人が、吐きかけるように言い放つ。
「精々野垂れ死なんよう、意地汚く暮らすこったなぁ?」
「ガランデ、魔王討伐の会議に行くわよ。誰かさんの尻拭いをしなきゃいけないの」
「おう。勇者はツラいね、っと。誰かさんが羨ましいぜ、ったく」
やがて辺りは静寂に包まれる。
しかして、アルルの心に安らぎが訪れる事は無い。
(こんな時、ギルが居てくれたら……
ギル、どこに行っちゃったの?
早く出てきて、いつものようにあたしをからかってよ……
もう、どうでも良くなってきちゃった。
早く行こう、ギルのところに。
待ってて、ギル。
今、あたしも、そっちに――)
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