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10.魅入られて
しおりを挟むリナリアがジュディーと一緒にひとまず席を外した。
まだ精神が安定していないから、落ち着かせる必要があるのだろうけど。
「何から何まで申し訳ありません」
「ジュディーと言いましたね。貴女の侍女は」
「はい」
ジュディーはお母様が連れて来た侍女だ。
男爵令嬢であるけど実家は大変貧しく父君が体が弱く、苦労が多かった。
今回の事でかなり心労を与えたのだろう。
「立派な方ですね」
「え?」
「主の為に侯爵家に喧嘩を売ろうとしている。下手すれば殺されるかもしれないと言うのに…あの目は本気です」
「ウィルフレッド殿下…」
「貴女は宝を持っておられる。その宝をどうか無くさないでください」
私が持っている宝とはなんなのだろうか。
これまで私は欠陥品のように言われて来たのに、何があると言うのか。
「どんな財も権力も、人の心を動かすことはできません。貴女は人の心が解る方だ」
「そのような…」
「実際、貴女を慕うものは多いはず。使用人であってもあそこまで忠誠心を持てるのは貴女が人の上に立つ器があるからです」
私にそんな器はない。
もしそんな優れた才能があれば、婚約者の心を繋ぎ止めることもできただろう。
「私は…」
「馬鹿な男です。貴女のような素晴らしい女性がいながら…」
「ウィルフレッド殿下はどうしてそんなに良くしてくださるのですか?」
隣国の伯爵令嬢でしかない私に対してどうしてここまで愛情深く接してくださるのだろうか。
アクアパレスの男性は皆そうなのだろうか。
「解りませんか?」
「はい?」
「言わなくては解りませんか…私が下心があるとお思いになりませんか」
「下心?」
私は固まった。
「貴女はもう少し警戒心を持つべきですね。ここに貴女を誘惑する悪い男がいるのに無防備すぎる」
「ウィルフレッド殿下!」
私は距離を取ろうとするも時すでに遅し。
腕を引かれてしまえば一人で歩けないので抵抗は出来ない。
「私が貴女をここまで必死で助けたのは、貴女が欲しいから…ずっと貴女を見ていたからですよ」
「何を…」
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「そんな愛らしい目で私を見ると言う事は期待してもよろしいですか?諦めようにも諦められないではありませんか」
何を?
「私が貴女を妃に望んでいるとしたら、貴女は許してくださいますか」
「ウィルフレッド殿下、お戯れは!」
「本気ならば貴女は私を愛してくれますか?私の妃になってくれますか?」
さっきまでの穏やかな瞳ではなく強い眼差しに私は体が動かない。
その綺麗な瞳に囚われるかのようだった。
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