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51.忘れた存在

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初日は別邸でゆっくり過ごし、護衛も最小限にした。
あまり大勢の護衛を連れてくると目立つし、領民の皆さんにも迷惑を掛けなように配慮した。


「本日はようこそお越しくださいました。このような田舎にまで足をお運びくださった事を、心より感謝申し上げます」

この村の長老で、辺境地の神殿にも顔の聞く人だった。


「こちらこそお世話になります」

「三日間よろしくお願いします」


大きな村で、すぐ傍には大きな牧場もあるが、牛の病気が流行ってしまった事で村が荒れてしまった。


今回視察に来た理由は、解決策と今後の事を話し合う為でもある。
この村の名前はトレンド村と呼ばれ、王都で食される牛や豚の肉はこの村の牧場で育てられていた。


この村を最優先救わなくてはならないのだ。


「先日手紙で頂いた牛の病ですが、効果的な薬を用意しましたので。まずは経過を見る方が良いでしょう。その間、牛を隔離して他の方法で収入を得ましょう。幸い山羊や羊は無事のようですし」

「ありがとうございます。本当に…」


長老は既に高齢でありながらも元気を退くことなく村の為に尽くし。
村のはずれで親を亡くした子供達を引き取る人徳者だった。


だからこそ俺も力になりたいと思った。

「牛の病が人に移るようなことがあれば大変ですもの。我が国では牛肉の流出が止まると貿易にも問題が生じますので気になさらないで」

「ありがとうございます」

祝いの席では牛肉が使われるので、このまま牛肉が使えなくなるのは死活問題だった。
ミルクが取れなくなるのも大問題だし、この村は先々代の王族も懇意にする村だとも聞かされており、長老も先代とは顔見知りだそうだ。


問題となる牛の病は飲み水からきていることが解り、すぐも問題は解決し。
しばらくの間は羊や山羊の乳で凌いでもらうことで解決した。


そして三日間の視察を終えた後にようやく王宮に返ってきたと思えば事件が起きたのだ。



王宮に戻り門の方で何やら騒々しいと感じた俺は窓から様子を見ようとした。


「殿下!行けません」

「どうしたの?」

オスカーと共に俺達の護衛を務めてくれる女性騎士が声を荒げる。


「どうか、お下がり下さい…殿下の命を狙う不届き者でございます!」

「何ですって?」


「リディ―、剣をしまってくれ!」


常に剣を持ち歩くリディ―を止めに入るも、門の方では騒動が続いていた。


しかし、こんな白昼堂々と命を狙う馬鹿が何処にいる?


ありえないだろう?


「妙な女がいきなり門の前に現れて、狂言を物申しているのです」

「殿下が相手にする価値もございません。どうか、そのまま馬車の中でお待ちください」


ピシャッと言い放つオスカーは窓を閉めるように言うけど、普段ならこんな言い方はしない。


「一体誰が俺の…」


「ルイスを出しなさい!私は彼の妻よ!」


窓を閉じようとした時聞こえた声に俺は固まった。


今の今まで忘れていた。


マリエルの存在を。


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