32 / 91
27.厳しい要求
しおりを挟むどの国も共通する習わしがある。
国王の配偶者となるの場合、通常は高位貴族に養子縁組をした後に花嫁修業を最低でも三か月受けるのが当然だった。
俺の場合は最低でも半年は必要なはずだ。
しかし…
「あの、公爵様」
「パパ上と呼んでくれ」
「はっ…はぁ」
俺は現在公爵家が所有する別邸にて招かれていた。
向かいにはサジータ様の旦那様でありウズミ・モリアーヌ公爵様がニコニコと笑顔を浮かべている。
「そんなに見ては穴が開くではないか」
「そうは言うが、ずっと息子が欲しかったから仕方ないじゃないか」
「その内孫が沢山増えれば、手が足りなくなるわ…」
はい?
孫ってなんだ?
「何を呆けておるのだ。孫が生まれ、姫君であれば公爵家の養女と迎える手筈になってるのは知っておるな」
「はい…」
通常政略結婚等で嫁ぐ側が跡継ぎがいない場合等では、子供の第二子を跡継ぎとして実家に養子にすると言うのは珍しい事ではない。
俺の前世でも戦国時代ではあったけど。
いや、早すぎないか?
まだ結婚もしていないのに子供の話なんて!
「王の配偶者になる以上は、子は必要じゃ。そなたの身を守る為にも」
「いえ…姫様はまだ年若く。早すぎる出産はお体に負担がかかります」
「ルイスよ、そなた…」
まずい、これは出過ぎた発言だったか?
けれど、他国でも子供を産んで早くなくなった女性は多い。
その理由として無理な出産が原因であることもなきにしもあらずだった。
「ご無礼を承知で発言をお許しいただけますでしょうか」
「遠慮はいらないよ。言いなさい」
パパ上は穏やかに俺の発言を許してくれた。
「近年、出産して亡くなる女性の数は多く。私の母も私を産んでから体を壊してしまいました。若い内に立て続けに出産することは母体にも影響が出ます」
「うむ…姉も難産だったからのぉ」
「姫様はまだ成人して日も浅く、若すぎます。お体に支障がでては本末転倒でございます」
別に、嫌だから言っているんじゃない。
女王陛下も子供ができにくい体であったけど、リディア王女も同様だ。
その理由として考えられるのが魔力の強さだ。
強い魔力故に子供ができにくい体という厄介な体質は未だに改善が困難だった。
「しかし、早い段階に子を作らねばそたの権威が失墜するであろう」
「今さら失墜する程の権威はないと思いますよ」
「ルイスや…苦労していたのだな」
「泣くでないわ!」
よよよと無くパパ上を睨みながら俺を咎めるサジータ様。
「そなたはもう伯爵の子息ではない。王の配偶者となるのだ…低姿勢は止めよ」
「いきなりそれは酷ではないか?何より義兄上はずっと低姿勢だったぞ?」
「その所為で貴族派に散々見下され、実のない果実等と不名誉な事まで言われていたのだぞ!」
亡くなられたシュヴァン殿下は生前相当苦労し、何度も離婚を突きつけられたと聞く。
その理由は、女王陛下に妊娠の兆しが全くなかった。
噂では原因はシュヴァン殿下にあるらしいが。
「心無い者達が義兄上には種がないと噂を流したのだ…姉上も子ができにくい体だった。故に義兄上が庇われたのだ!ご自分の体が弱いせいで満足に勤めが果たせぬとな…すべては姉上を守る為じゃ」
そうだったんだ。
亡くなられても尚、その面影を大事にする女王陛下は一度も再婚を望まなかった。
今でも祈りの間に飾られている平和を象徴する天使の絵はシュヴァン殿下がモデルだと聞かされたが、本当に天使のような人だったのかもしれない。
「私は義兄のような目に合って欲しくないのだ」
「サジータ、君の気持は解るが…周りが言うべきじゃないだろ」
「うむ…」
まだ結婚式もしていない状況で子供の話をするのは早い。
しかし俺の立場を考えれば、できるだけ早く子を作って欲しいのはパパ上も同じらしい。
どうしたものか、困り果てた。
大体、まだプラトニックな関係なんだから無理だろ!
なんて思っていた俺は馬鹿だった。
3
お気に入りに追加
2,910
あなたにおすすめの小説
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~
山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」
婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。
「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」
ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。
そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。
それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。
バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。
治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。
「お前、私の犬になりなさいよ」
「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」
「お腹空いた。ご飯作って」
これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、
凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。
王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!
榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。
理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。
そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ?
まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる