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10.女王思い、母の思い
しおりを挟む着々と準備が進められる生誕祭に誰もが良き日になるだろうと思っていた。
近隣諸国にも生誕祭に訪れるので、守備は抜かりなく進める必要もあり、当日は王宮の警備を増やさなくてはならない。
今年の生誕祭は特別な日でもある。
なのに、未だに準備が整っておらぬとは!
執務室に書類をにらめっこしながらお茶を飲み激務を行う。
娘のリディアはあの性格故に婿候補を追い返すような真似をしているが、王配という立場を利用して国盗りをしようとした輩もいたのだ。
そうなると、後は候補が少ない。
王族派の貴族であり、教養が高く聡明かつ控えめだ男性等、そういない。
「はぁー、困ったこと…」
「王族の婚姻は義務です。そこまで考える必要はありませんぞ」
「これだから貴様はダメなのじゃ」
隣で茶を飲みながら言う宰相は本当にデリカシーの足りぬ男だった。
確かに王族の婚姻は色恋ではないが、私は夫と思いあって結婚し、今があるのだ。
愛のない政略結婚でも愛情は生まれる。
育てて行く愛でも良いと思っているし、互いに尊敬できれば良いとも思っていた。
「何より、夫の遺言じゃ。王とは孤独な存在故に支えとなるは伴侶であるからして、例え身分が高くなくとも、王配偶に相応しい男を夫に迎えて欲しいとな」
遠回しに将来の伴侶はリディアに選ばせろと言っていた。
「そんな悠長な事を…」
「そうじゃ、もう時間はない」
生誕祭が終わってすぐに戴冠式は執り行われる手はずになっている。
「もう一週間もないのですぞ」
「だから困っておるのじゃ…ん?」
床に落ちた一枚の手紙が目に入る。
他の手紙とは異なり随分と質素な封筒であるが見覚えのある封筒だった。
「誰からだ…」
生誕祭の招待客は全て把握していたと思ったが…
「これは!」
「陛下?いかがされましたか?」
「宰相、生誕祭の後は舞踏祭を行う予定であったな?」
「はい、毎年変わりありません」
「そうか…では、その舞踏祭で正式にリディアの夫を決める」
「陛下!」
天は我らに味方をしてくれているのだろうか。
愛しい娘が向かう先は真っ暗な闇であるが、灯台を見つけることは許される。
どんな境地に立たされようとも一条の光があれば歩いて行ける。
私に温もりを与え、光を与え、道を照らしてくれた夫がいたように。
リディアにも光を与えてくれる存在がいるならば、願わずにいられない。
「衣裳の変更を…舞踏祭のドレスをあれに…金はいくらかかっても構わぬ」
「かしこまりました」
「何が何でもこのチャンスを物にするのだ!」
私はこの国を統べる女王。
国を最優先に考え行動しなくてはならないが、母親として娘に幸せになって欲しい。
「侍女長、すぐに手紙を届けてるように」
「はい陛下」
例え、女王になっても幸せになっていいわけではない。
苦難多い道のりでも私の一生は幸せだったと言えるだろう。
だからこそ、娘のリディアにも幸せになって欲しい。
その為ならば多少の事は目を瞑ろう。
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