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閑話2.悩まし気な王女
しおりを挟むリヴィアは母親と宰相が幼稚な言い合いをしているのを見物しながらその場を去って行く。
「お待ちください姫様!貴方様の…」
「解ってますわ。戴冠式までには適当に見繕いますから」
「そんな、お中元のような…」
側近は真っ青な表情をしながらも追いかけるも、得意の素早さで逃げて行く。
「本当に鬱陶しいわ」
一人になりたくて、お気に入りの庭園にある神殿に向かう。
大好きなラベンダーの香りに癒されながら、心地よい空間を楽しんでいた。
「誰が来ても変わらないわよ…まぁ、外で愛人を作っても公の場だけ合わせてくれればいいし」
年頃の少女とは思えない発言だったが、既に貴族社会の常識を目の当たりにしているので、結婚に夢を抱けなかった。
むしろ現実的な思考を持っていた。
夫に少しも期待感などなかったし、どうせ自分を疎むか、利用するかだろう。
尊敬する父のような男性が何人もいるはずがない。
とは言え、国を誰よりも慈しんだ父の願いを無下にする気はない。
次期女王として国を守る覚悟もあったので、誰が夫に選ばれようとも耐える気だった。
「生誕祭が終われば、私は籠の中の鳥…これまでのように自由に過ごすことはできないわね」
花を一輪手折りながらため息をつく。
女王となっても夫が支えてくれるとは限らないし、色々指図される可能性もある。
もしかしたら、敵となる可能性を考えると気が重かった。
「生誕祭には多くの貴族が集まる…ルイスも来るかしら」
また一つため息をつきながら花を愛でる。
「生誕祭には彼にも参加してもらえるように招待状を出したけど、彼はもうじき結婚する身…参加してくれるかしら?」
幼少期に幼馴染として過ごした時間はリディアにとって素敵な思い出だった。
優しく教養高いのに、控えめな性格のルイスは他の貴族から常に馬鹿にされても耐え忍んでいた。
跡継ぎにも慣れない事を馬鹿にされ続けていたが、姉を支えようとする姿は弱いとは思えない。
むしろ嫌がらせをして楽しんでいる貴族令息の方が軟弱に見えた。
薬学の勉強をするルイスを本ばかり読んでいる軟弱だと言うが、真面な教養もない彼等の方が馬鹿だとも思った。
華やかさもなくパッとしないと言われていたが、その辺の素行の悪い子息よりもずっと礼儀正しく絵にかいたような王子さまでエスコートだって誰よりもスマートで素敵だった。
誕生日には豪華なプレゼントを贈りながら下心を見せる令息とは反対に自分で育てた薔薇を贈り、温室に薔薇を飾り素敵な贈り物をして喜ばせてくれた。
お金や権力で手にはいるような物はすべて持っているが、ルイスはリディアの一番星い物を常にくれた。
王女としての重圧に耐え切れず、苦しんでいる時にどれだけ支えになってくれたか解らない。
そんなルイスに心を許し、何時しか愛するようになるのに時間はかからなかったが、既にルイスには婚約者がいたので初恋は墓の中にまで持って行くつもりだった。
何より幼い頃の約束がある。
今日までリディアを支えて来てくれた。
「約束は守るわ。私と貴方の…でも、最後に一度だけでいい」
ルイスが他の誰かの物になる前に、生誕祭でダンスを踊ってもらいたい。
ファーストダンスだけでいい。
貴族社会では婚約者がいてもお祝いの席で一度だけならばダンスを踊ることは許される。
同じ相手と二度踊る行為は許されないのだから。
「せめて最後の思い出作りをしたいわ…そしたらすっぱり諦められる」
思い出を一生大切に抱きしめて、初恋を終わらせることができる。
他の男に抱かれ、その男を愛せなくても夫として迎える覚悟ができると思った。
「ルイス…」
せめて最後に一度だけダンスを。
切なくルイスの名前を呼びながら白薔薇にキスを送ったのだった。
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