5 / 91
4.勘当
しおりを挟む家を出ようと思ってました。
でも――。
「ダメだ」
昼過ぎに帰って来た父上に止められました。
隣で咳き込む母上も厳しい表情をして首を縦に振ることはなかった。
姉上に至っては。
「死にたいようね。散々ルイスから搾取しておいて婚約破棄?追放?ふざけるんじゃないわよ!!」
「待て待て、魔力を発動するな」
「今すぐ灰にしてやるわ!」
俺の想像通り姉上は烈火の如く怒っていた。
唯一の救いは、義兄上が冷静であったことぐらいだと思ったが。
「物的証拠が残るし、生ぬるい…私は、生き地獄を味合わせながらジワジワいたぶりたいのだがな」
いや、最後の頼みの綱である義兄上も援護射撃に回っている始末だ。
「まったく何処までも愚かな…マリエル嬢もだが、婚約者を繋ぎ留められぬとは。お前の落ち度だ」
杖で床を叩きながら厳しい表情をするお祖父様。
我が家ではお祖父様の言葉は絶対でもあり、逆らうことはできなかった。
「お前は何処まで家に泥を塗れば気が済むのだ…ただでさえ加護無しというだけで恥だと言うのに」
「お祖父様!あんまりです」
「アディーレは黙っておれ」
「くっ…」
普段から勝気な姉上でもお祖父様に逆らうことはできなかった。
「婚約破棄の一件は王宮に向かい陛下にお詫びしなくてはならん。お前が王都に向かえ」
「待ちください。王宮でさらし者になさるおつもりですか…そんなことをしたら!」
義兄上が声を荒げて庇おうとしてくださったが…
「これ以上、領地にいさせるわけには行かん。王宮より手紙は来ておる。生誕祭についてじゃ」
差し出された手紙には王族の紋章が描かれていた。
「生誕祭に参加するのがお前の最後の勤めと心得よ」
それはつまり――。
「お義父様、ルイスをフェンネル家から追放なさる気ですか!」
「そうだ。生誕祭が終わり次第…二度と帰って来ることは許さぬ」
有無を許さないと言わんばかりにお祖父様は部屋を出て行き、俺の顔を見ることもなかった。
「そんな…ゲホゲホ!!」
「休んだ方が良い、部屋に…」
父上が母上を支えながら部屋に戻るように告げるも母上は泣きそうな表情をしていた。
お祖父様が一度言ったことは覆すことは不可能だった。
一度領地を出たら二度と帰って来ることはできないだろうし、留まればどうなるか。
「ルイス!」
「荷造りはできていますので」
後ろ髪を引かれる思いだった。
病弱な母に更なる心労を与える俺はなんて親不孝なんだろうか。
「親不孝をお許しください」
「ルイス…」
父上に頭を下げながらどんなお叱りも受けようと思ったが…
「お前は一度でも親不孝をしたことがあるのか?」
「え?」
「私はお前を誇りに思う。誰よりも優しく愛情深いお前を恥じたことは、一度もない」
こんな時まで父上は俺を責めない。
本当なら罵倒されても仕方ない程恥ずかしい息子だっただろうに。
「ありがとうございます。私を今日まで慈しみ育ててくださり、誠にありがとうございます」
「ルイス…」
「母上、どうかお体をお大事に…遠くから祈っております」
これが最後の別れになるかもしれない。
それでも少しでも長く生きて欲しいと願わずにはいられない。
悲しみに暮れながら静かに誰かに見送られることもなく荷物は最小限にして出て行く。
「まぁ、何とかなるか!」
俯くことなく顔を上げながら領地を出て行く俺は思いのほか明るかった。
なんせ俺は――。
「お役目が終わったら趣味に没頭しよう。そして乙男に戻る!」
前世の記憶がある。
前世では成人しており、少しばかり特殊な人種だった。
その名も乙男!
少女趣味を持つ男を意味しているのだ。
小さい頃から花の世話や手芸が好きだった俺は、趣味でハンドメイド作家をしていた。
領地でも俺の趣味で色々作っていた。
だから王都で店を開くのもいいかもしれない。
元は趣味んだったし、特別なスキルはほとんどないが、心強い味方もいるから大丈夫だ。
5
お気に入りに追加
2,915
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)妹に婚約者を譲れと言われた。まあ、色ボケ婚約者だったので構わないのですが、このままでは先が不安なので、私は他国へ逃げます
にがりの少なかった豆腐
恋愛
※後半に追加していた閑話を本来の位置へ移動させました
――――――――――
私の婚約が正式に決まる前日の夜。何かにつけて私の物を欲しがる妹が私の婚約者が欲しいと言い放った。
さすがに婚約について私がどうこう言う権利はないので、私に言われても無理と返す。
しかし、要領がいい妹は何をしたのか、私から婚約者を奪うことに成功してしまった。
元より婚約に乗り気でなかった私は内面では喜びで溢れていた。何せ相手は色ボケで有名な第2王子だったのだから。
そして、第2王子と妹の婚約が正式に発表された後、私に関する根も葉もない悪い噂が流れ始めました。
このままでは、私がこの国で暮していけばどうあっても先は暗いでしょう。親も助ける気は無いようですし、ならばさっさとどこかへ逃げ出した方が良いかもしれませんね。
そうして私は他国の知人を頼りに、人知れず国を出ることにしました。
※この世界には魔法が存在します
※人物紹介を追加しました。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる