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3.お迎え
しおりを挟む真夜中に森を抜けるのは危険だった。
何故なら魔獣達が人を襲う可能性があるからだ。
ただし、通常ならばだ。
ただし俺は生まれてこの方魔獣に襲われた経験はない。
その理由は――。
「ガウ!」
「メル―!」
前方から現れたのは魔熊で後方から近づくのは。
「モォォォ!!」
魔牛だった。
「ワゥ!」
「モー!」
何故か俺は魔獣から好かれていた。
領地には多くの野生の魔獣が生息しており、祖先はテイマーだった事もある。
魔力はほとんどなく加護無しの俺であるが、領地の仲間達の助けもあり、特に不自由を感じていない。
まぁ、お金はないけど。
食べて行くのには困らないし、俺の趣味で必要なお金は稼いでいる。
「迎えに来てくれたんだね?ありがとう」
「モォォォ!!」
「ビーフン、夜も遅いから静かにしてね」
「ガウ」
「ハニー、眠っている皆を起こさないように頼んだよ」
魔熊のハニーに抱かれながら俺はそのまま、森を抜けて行く。
道中疲れがピークに達していたのかうとうと眠ってしまい、気が付いた頃には自分の部屋のベッドで眠っていた。
「うっ…朝か」
日の光で目を覚ますと枕元にはロシナンテが眠り、床にはビーフンとハニーも眠っている。
「ふわぁー、良く寝た」
カーテンを開けると麗らかな日差しが眩しく感じ、穏やかな朝が訪れた。
はずだった。
「ルイス!」
「あ、オスカー」
侯爵家令息であり、幼馴染で親友でもある。
「こんな朝早くからどうした…いででで!」
前髪を引っ張られる。
いきなり押しかけて来て前髪を引っ張るなんて酷い!
「頭に凍傷の傷跡がある。あのクソ女にまたやられたのか!!」
「ちょっと揺らさないで…うっぷ」
肩を持たれシャッフルされてしまう。
朝食を食べていないから良かったが、吐きそうだ。
「かー!むかつく!不愉快だ」
「そう怒るなよ」
「お前は男の矜持を侮辱されたんだぞ!紐なのは誰だ?遊び歩いて男漁りばかりに精を出しているふしだら女が!一番不愉快なのは母親だ…誰のおかげで不自由ない暮らしができている!誰のおかげで薬草を売れていると思っているんだ!」
朝早くから叫び続けるオスカーを何とか落ち着かせたいが、完全に頭に血が上っているので難しい。
「大体、前ストラス伯爵が生前の時に決められた婚約だろう?婚約の継続を願ったのは誰だ?」
「ストラス伯爵夫人です」
「なのに、恩を仇で返しやがって!大体追放ってなんだ?ストラス領地の半分以上はお前が復興させたのに、何自分の物にしてんだ!散々搾取しておきながら!」
オスカーが言う、ストラス領地の半分が俺の物だと言うのは事実だ。
マリエルの父親の、前ストラス伯爵が存命だった頃は荒地だったが、俺が薬草農園にしたのだ。
他にも荒れているが使えそうな土地を利用して農作物を作り、その土地の手入れを俺に任せると同時に、権利も譲られた。
土地の名義は俺になっているのだが…
「大体今の家だって、前ストラス伯爵がお前に残したんだろう?婿のお前に残せるものが少ないからせめてと」
「そのはずなんだけど」
生存遺言として譲られたはず。
新居となる予定の邸も俺の名義になっているので、所有権は俺にあるはずなんだけど。
きっと、マリエルは自分の物だと思っている。
昔からそうだった。
マリエルの物はマリエルの物。
俺の物もマリエルの物という考えがあってジャイアニズムだったな。
「これからどうするんだ」
「家を出るよ…勘当してもらう」
「は?」
こうなった以上は、実家にも居づらい。
姉上にも迷惑がかかるし、義兄様にも苦労を掛けてしまう。
いや、あの人は構わないと言うけど。
婚約破棄になって追放された俺を傍に置けばどうなるか目に見えている。
「王都で仕事を探してひっそりと静かに過ごすよ」
「お前はまだ隠居する歳じゃない。大体、働き口はあるのか?」
「これでも領地代行を長年務めて来たんだ…何とか生きて行くよ」
姉上のように優れた剣の腕もなければ加護もないけど、生きて行くことはできる。
だから心配ない。
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