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1.婚約破棄
しおりを挟む数年たっても俺とマリエルの関係は改善されることはなかった。
それどころか悪化の一途を辿ってしまった。
婿養子という立場上、一歩下がっていなくてはならなかった。
俺も自分の立場を十分理解しているが、一族揃っての席で俺だけ席がなかった。
「貴方の席はなくてよ?だって貴方は他人ですもの」
「は?」
言っている意味が解らなかった。
確かに俺はまだ婚約者という立場であるけど、他人って?
「マリエル」
「気になさらないで。どうせただの紐ですもの」
俺を見下しながら隣で見下す様に笑っている男がマリエルの肩を抱く。
「結婚しなくては爵位を継承できないの。でも、その必要はないわ!」
「ああ、長男でありながら廃嫡された出来損ないと聞いていたが…ここまで酷いとはな!可哀そうなマリエル…厄介者を押し付けられたんだな」
「でも、もう我慢しなくても大丈夫だわ。今日を持ってルイス・フェンネルとの婚約を破棄します。そしてここにいる私の愛しい人、キャルドン・カプセルを婚約者とするわ!」
公衆の面前で言われるが、別に傷つきはしなかった。
ただ、問題なのは貴族同士の婚姻は簡単に破棄できないし。
マリエルの実家は我がフェンネル家の薬草やハーブを財源にしていた。
縁を切ると言うことは、薬草やハーブも得ることがなくなるという意味を解っているのだろうか?
「とりあえず、飲み物を用意してくれ。喉が渇いた」
「そうよ、早く給仕をしなさい!本当に気が利かないわね」
「まぁ、君の淹れた飲み物なんて飲めたものではないだろうが…仕方ないからね」
「やだ、キャルったら優しい!」
俺の事など無視をしていちゃつく二人。
周りは同情の視線以外に嘲笑う声も聞こえていた。
「無様だな…」
「伯爵家の子息が給仕をさせられて…だが、加護も持たず、花を育てるかしか能がないなら仕方ないな」
「所詮は出来損ないで価値のない男だ」
聞こえるように話す声に俺は耐えるしかない。
否定も肯定もせずに押し黙る。
この場に姉上がいなくて助かった。
もしこのパーティーに参加していた怒り狂って大暴れをするだろう。
そう思っていたら水をかけられた。
「何時までいる気なの?ここは給仕係が長居していい場所じゃないのよ。早くお客様のお出迎えをしなさい。それから馬車の手配もね」
「おいおい、いくら何でもそこまでさせるなよ?一応貴族だろ?」
「いいのよ?だって無能で農民の真似事をしているんですもの」
「これはたまげた!土いじりが好きだと聞いていたが…クハハハハ!!」
既に会場の空気は俺の悪口大会となっていた所為で、二人が罵倒すれば他の客も便乗していた。
言い返しても無駄だし、マウントを取られるだけだと解っていたのでただ、耐えるしかない。
そして俺は目立たない場所にて他のお客様の出迎えから、給仕の役に召使のような仕事までもさせられるが、雑用の仕事が体に染みついてしまっている。
領地代行の仕事は全部押し付けられ、ストラス家でも蔑ろにされた俺に侍女達が世話をしてくれるはずもないので、自分の身の回りの事は自分でして来た。
身の回りの事が出来なければ馬鹿にされ、できたとしても世話をしてくれる侍女もいないのかと馬鹿にされたけど。
俺の立場は所詮は爵位を継承する為の道具。
ストラス伯爵夫人も俺を迎えることを望んでいなかったのかもしれない。
なんせ俺を婿養子に望んだのはマリエルの父だった。
このまま婚約破棄をされてしまうのだろうかと思っていたが、俺が思うより事態は深刻だったようだ。
マリエルは婚約破棄をするだけでは飽き足らずとんでもない茶番劇を始めてしまったのだから。
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