166 / 169
⑧
しおりを挟む「もう話すだけ無駄ですよ」
「そうですね」
私を見ない二人は、扉の方を見た。
微かに足音が聞こえ、複数の兵士が中に入ってくる。
「院長先生、シスターガーナ」
兵士の一人が院長と修道女に何かを言っていた。
「ではよろしいですね」
「はい、彼女をお連れください。更生の見込みはありません」
他の兵士が私の腕を強くつかみ無理やり立たせた。
「痛い!」
「早く立て!」
乱暴な扱いに誰も注意しない。
院長は私と目を合わせることはなかった。
「ちょっ…むが!」
文句を言おうとするも口に石を放り込まれ、その上から布をかぶされる。
「もーもごもご!もー!」
言葉を話すことができない。
「大人しくしろ。既に貴様に抵抗することは許されない…暴れるならば多少の手荒な真似も許される」
そんなのあんまりだわ。
これじゃ家畜と同じ扱いじゃない!
体を拘束されて口をふさがれ、少し暴れたら暴行を与えられるなんてひど過ぎる。
「もう二度と会うことはないわ。元気で過ごしな…人間としての尊厳はないけど」
この女!
今すぐ殴ってやる!
「さぁ、早くお連れください」
「はい、失礼いたします」
丁寧に敬礼をして私はそのまま連行され、牢馬車に乗せられた。
何を言っても誰も聞かない。
聞いてくれなかった。
身動きが取れない私は暴れるしかなかった。
嫌よ。
北の最果てになんて行きたくない。
そこでどんな扱いを受けるか解らないけど最悪な環境であることは解った。
お願い助けて!
謝るから、反省するから許して!
暴れまわり柵に向かって体当たりをするとガーナとかいう修道女が私の元に近づいてきた。
「シスター!なりません!」
「いいんですよ」
私のすぐそばに来て…
「いい気味だよサンディ…堕ちる所まで落ちて最後は一人で死ねばいいんだよ」
他の兵士には見えないようにガーナは告げた。
「シナリオ通りにアンタは踊ってくれた…アンタを地獄に叩き落すためにお嬢様の読みは当たったね」
何ですって?
お嬢様って…まさか。
あの生意気な貴族の…
「アンタを一番最悪な形で北の最果てに行かせるには、アンタに一人で踊ってもらう必要があった。私はその昔アンタの所為で大事な人を傷つけられ人生を奪われたんだよ…だからお返しだ」
裏ですべてあの我儘お嬢様が仕組んでいた?
そしてこの女も…
「だけど訂正してやるよ。院長先生と他の修道女は善意でアンタを守ろうとしたんだ」
そんな言葉を聞いてもなんとも思わなかった。
あるのは絶望だけだった。
1,045
お気に入りに追加
5,404
あなたにおすすめの小説
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
何も知らない愚かな妻だとでも思っていたのですか?
木山楽斗
恋愛
公爵令息であるラウグスは、妻であるセリネアとは別の女性と関係を持っていた。
彼は、そのことが妻にまったくばれていないと思っていた。それどころか、何も知らない愚かな妻だと嘲笑っていたくらいだ。
しかし、セリネアは夫が浮気をしていた時からそのことに気づいていた。
そして、既にその確固たる証拠を握っていたのである。
突然それを示されたラウグスは、ひどく動揺した。
なんとか言い訳して逃れようとする彼ではあったが、数々の証拠を示されて、その勢いを失うのだった。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる