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耳を塞ぎたくてもできない。
この場から逃げ出したくてもできない。

拘束されている状況では、何もできないからだ。


「絶望する資格はないわよ。お前はそれだけの事をした」

「酷い…なんでこんな酷いことを」


こんなやり方あんまりじゃないか。
可哀想な僕にさらに傷つけて、悪魔のようだ。


「酷い?これまでリサ先生がお前に献身的だったのに。愛はなくとも情はあったわ…その情を壊したのは誰?あの方は一度だってお前を悪く言わなかった。それどころか申し訳ないと言っていた!優しい私の先生をお前はボロボロに傷つけ、母親は毒を盛った」

「止めてくれ!聞きたくない!」

「聞くのよ!お前は傷つくことも泣くことも許さない」



罵倒を浴びせられ、僕はなすすべもない。

もういいじゃないか。
これ以上僕を傷つけないでほしい。


「二度と会うことはないからこそ言うわ。お前は幸せになる権利を捨てたのよ」


「そんな権利…」

「あのままリサ先生を奴隷のように使い殺していたわ。それでもお前は、お前達は罪悪感を抱かなかった。そんな人間が幸せになるなんて許さない…残りの人生を悔やみなさい!」


憎悪の感情だけをぶつけられる。
こんなにも恐ろしい憎悪は初めてでそれほどに恨まれていたことにようやく気付いた。


「リサ先生の子供が男の子ならば、皇太子になる可能性もあるわ」

「皇太子…」

「だってそうでしょう?現皇帝陛下は結婚されていない…先帝陛下は元は伯爵家の三男だったもの」



リサの産んだ子供がもしかしたら皇太子になるかもしれない。
僕はこの先日陰の暮らしを強いられるのに、光あふれる世界で幸福になるリサを許せない。



「島流しになっても情報は流れるようにしておくわ。これが私にできる報復よ」


「そんな…」


「話は終わりました」


視線を監視役に向け部屋を出ていく。


「待って…待ってくれ!」


このまま僕は地獄で生き続けるのか?

殺してくれた方がどれだけいいか。


「助けてくれ!頼む!」


どんな叫んでも無理だと解っている。

それでも言わずにいられなかった。



手を伸ばすこともできず、僕はそのまま牢屋に戻された。




残ったのは絶望だけ。
僕の中に残ったものは何もなかったのだった。



一週間後、僕は西の最果てに送られたのだった。



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