上 下
139 / 169

しおりを挟む



「お初にお目にかかりますお嬢様」


服装は質素であるけど、派手さがないだけだった。
歩き方にも、話し方にも気品があった。


何より私と話すときは同じ視線になるように膝をおって話してくれた。

変に子供扱いをすることなく話してくれたのは叔父様以外で初めてだったかもしれない。


「旦那様より、お嬢様は大変聡明なお方とお伺いしております。故にお勉強に関しては専門的なものにさせていただきたく思います」

「私に専門的な事を教えられるのかしら?言っておくけど、私を心身共に満足できるとは思えないわ」


これまでの家庭教師は私の知りたいことは教えてくれなかった。

名前だけの無能な家庭教師は不要だわ。


「ではお嬢様のご期待に応えられますように努力いたします。ですが、お嬢様も私の宿題に答えられるように努力してください」

「フンッ!この私に勝負を仕掛けるなんて甘いわよ」



見た所他の家庭教師よりも若いわ。
叔父様が今度こそはと言っているけどそう簡単に認めたりはしないわ。



その日から私達の攻防戦は始まった。


だけど私は子供で、本当に狭い世界しか知らなかった。



「チェックメイトです」

「なっ!」


まず手始め手にチェスで勝負をした。
家庭教師にはじめにする嫌がらせだったのに、私はあっさり負けた。


「お嬢様は中盤で焦り過ぎですわ。これでは勝負に持ち込めませんわ」

「ぐっ…何者よ」



甘く見ていたわ。
毎晩叔父様と勝負していたし、自信があったのに。


前半は順調だった…

でもフェイクをしかけられてあっさり負けた。


「チェスがおできになるならば次はカードゲームをいたしましょう…記憶力に自信があるとお聞きしましたので」

「いいわ。その代わりできなかったら今日の授業はなしよ。私のメイドを一日するのよ」

「では私が勝ったら私のお願いを聞いていただきます」

「いいわ。負けるはずないんだもの」



私は天才的な記憶力がある。
お母様の家系ではそういった女性が稀に生まれる。


それが私だと言われた。
同年代の子供よりも理解力があり記憶は一度見れば忘れない。


だから負けるはずがないのだ…


なのに―――。



「私の勝ちですね」

「何でよ!どうして…」



私はこれまで努力というものをしたことがない。
だってそんなもの必要なかった。



「お嬢様は神様からの贈り物を完全に扱えていません」

「そんなはず…」

「いかに記憶力が良くとも、些細なものまで完全に記憶するには何度も記憶しなくてはなりません。瞬間的な記憶でも…すべてを記憶する前にシャットアウトしているのです」


この言葉に私は何も言い返せなかった。


ある程度記憶すればいい。

そんな感じだったから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が我慢する必要ありますか?

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? 他サイトでも公開中です

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛
「余計な事をせず、ただ3年間だけ僕の妻でいればいい」 借金の肩代わりで伯爵家に嫁いだクロエは夫であるジュライアに結婚初日そう告げられる。彼には兼ねてから愛し合っていた娼婦がいて、彼女の奉公が終わるまでの3年間だけクロエを妻として迎えようとしていた。 身勝手でお馬鹿な旦那様、この3年分の恨みはちゃんと晴らさせて貰います。 ※誤字脱字はご了承下さい。 タイトルに※が付いているものは性描写があります。ご注意下さい。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...