137 / 169
③
しおりを挟む「こんな時に申し訳ありません」
すっかり冷めてしまったお茶を飲みながらジャンが深々と頭を下げた。
「君が謝る必要はないだろ。裁判であれだけのことをしてくれたんだから」
「その裁判なのですが、相手方の弁護士も勝つ気はなかったようです」
「え…」
それは弁護士としてどうなのだろうかと思った。
「相手方の弁護士は依頼人の罪を少し軽くする程度だったようで、裁判に勝つ気は最初からなく…別件で刑務所に入れる用意をしていたそうです」
「意外だったな」
「私もです。ですが…やり方が手ぬるいと感じて違和感を覚えたのです」
あそこまで入念だったならば解る。
後から知ったけど、サンディさんには精神的な病が見つかったようで、嘘ではなかったそうだ。
精神が大人になりきっておらず幼少期に受けた満たされない心が大人になって影響を及ぼしたとか。
「あちらも子供を持つ身故に、こちらと敵対する気はなかったようです。あくまで依頼人の利益を守りながら、ミレイちゃんを守る方法を考えたそうです」
「だがあのやり方は…」
「あちらの弁護士は裁判の中で、ミレイちゃんの愛情を取り戻してくれると思ったのでしょう…」
あちらの弁護士も苦しんだのでしょうね。
仕事とはいえ子供を持つ親であるなら、子供の将来を一番に考えたかったのかもしれない。
「私はこの世が理不尽であることが悲しいです」
「法律も偏っている」
「完全な形で弱きものを守れない。だからこそ、今回の法律はお役所勤めの連中に良い薬となったでしょう」
これまで弱い立場の妻がどれだけ犠牲になったか。
そして同じようなことを繰り返せば報復される側になるということだ。
「王都に住まう奥様方は署名活動で、法律の改正について訴えています」
「それは怖いことだ」
上流階級では女性を軽視しているけど、本当の意味で怒らせたら怖いのは子を持つ母親なのだから。
「この世を守っているのは名もなき女性たちですから」
「ああ、彼女達を敵にしたら大変な目に合うぞ」
「大変な目に合わない為にも私達も良い仕事をしなくては」
法律の改正までまだまだ困難な道のりが待っている。
だけど、近いうちに改正される。
法律だけでなく間違った常識が壊れる日が来るのだから。
1,465
お気に入りに追加
5,126
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話


皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる