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③
しおりを挟む「こんな時に申し訳ありません」
すっかり冷めてしまったお茶を飲みながらジャンが深々と頭を下げた。
「君が謝る必要はないだろ。裁判であれだけのことをしてくれたんだから」
「その裁判なのですが、相手方の弁護士も勝つ気はなかったようです」
「え…」
それは弁護士としてどうなのだろうかと思った。
「相手方の弁護士は依頼人の罪を少し軽くする程度だったようで、裁判に勝つ気は最初からなく…別件で刑務所に入れる用意をしていたそうです」
「意外だったな」
「私もです。ですが…やり方が手ぬるいと感じて違和感を覚えたのです」
あそこまで入念だったならば解る。
後から知ったけど、サンディさんには精神的な病が見つかったようで、嘘ではなかったそうだ。
精神が大人になりきっておらず幼少期に受けた満たされない心が大人になって影響を及ぼしたとか。
「あちらも子供を持つ身故に、こちらと敵対する気はなかったようです。あくまで依頼人の利益を守りながら、ミレイちゃんを守る方法を考えたそうです」
「だがあのやり方は…」
「あちらの弁護士は裁判の中で、ミレイちゃんの愛情を取り戻してくれると思ったのでしょう…」
あちらの弁護士も苦しんだのでしょうね。
仕事とはいえ子供を持つ親であるなら、子供の将来を一番に考えたかったのかもしれない。
「私はこの世が理不尽であることが悲しいです」
「法律も偏っている」
「完全な形で弱きものを守れない。だからこそ、今回の法律はお役所勤めの連中に良い薬となったでしょう」
これまで弱い立場の妻がどれだけ犠牲になったか。
そして同じようなことを繰り返せば報復される側になるということだ。
「王都に住まう奥様方は署名活動で、法律の改正について訴えています」
「それは怖いことだ」
上流階級では女性を軽視しているけど、本当の意味で怒らせたら怖いのは子を持つ母親なのだから。
「この世を守っているのは名もなき女性たちですから」
「ああ、彼女達を敵にしたら大変な目に合うぞ」
「大変な目に合わない為にも私達も良い仕事をしなくては」
法律の改正までまだまだ困難な道のりが待っている。
だけど、近いうちに改正される。
法律だけでなく間違った常識が壊れる日が来るのだから。
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