124 / 169
⑤
しおりを挟む誰もがあの女を見て冷めた表情、もしくは軽蔑の眼差しを送っていたが、裁判長の言葉を守り黙っている中、ヒステリックに叫ぶ姿は酷いものだ。
新聞記者に至っては。
「酷いな」
「こんな被告人初めてだ」
「ああ…」
ひそひそ話ながらシャッターを切っている。
内容は聞こえているし、ある程度予想ができていたのだが、ここまで思い通りに行くとは思わなかった。
「叔父様、あの馬鹿家族はこの度の裁判の意味を解っていないのではありませんか」
「流石にそれはないだろう」
今日の裁判にて被告人は、あの女で、訴えた側はライアスだ。
リサがこの場にいないのは故意的にで、私は病気で参加していないと告げている。
被害者であるが、この度の裁判で表沙汰にしないようにする為に、ライアスが表に立ってくれたのだから。
「被告人側、静粛に!」
「逃げたのね…最低な女」
しかし、あの女の発言で気づいた。
「あそこまで馬鹿だったとは」
「自分が被告人だと解ってませんわね。しかも訴えられるのはあの馬鹿男と思い込んでますわ」
「ああ、弁護士が耳打ちしているな」
ちゃんと説明を受けているはずだ。
こちらの手紙も届けてあるし、第三者から説明を受けているのに、どう勘違いをしたのか。
裁判長も頭を抱えていたが、裁判が始まれば判るだろう。
自分たちの立場を。
「それでは被告人、サンディ・シンパシー。この場に貴女は、まだ赤ん坊の娘に対して育児放棄をし、その世話を元義妹に押し付け精神的に追い詰め、夫には嘘を吐き続け金銭的虐待を受けたというのは事実ですか」
「違います!でっち上げてです!」
「この場には被害者であるミレイ・シンパシー身体的虐待を受けていると報告を受けています。前へ」
裁判長が視線を向けたのは、今日の為に呼ばれた看護師だった。
ミレイが保護された時に栄養状況を見て医師と連携し虐待の有無を判断してくれたのだ。
「ミレイちゃんは長きによる虐待を受けているのは間違いありません。頬を叩かれた跡に服も汚れたままで、体もあせもだらけでした…何より数日の栄養不足でした」
「それは…元義妹が暴力を!」
「被告人に発言の許可は出していません。静かに」
「でも…」
「サンディさん。黙ってください」
被告人は聞かれた時以外は発言を許されていないのに、撤回したが為に声を荒げていた。
既に裁判長の判断は白か黒か決まっているようにも思えた。
だが、あの女の暴走はここで終わらなかった。
1,611
お気に入りに追加
5,331
あなたにおすすめの小説
皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
離婚したらどうなるのか理解していない夫に、笑顔で離婚を告げました。
Mayoi
恋愛
実家の財政事情が悪化したことでマティルダは夫のクレイグに相談を持ち掛けた。
ところがクレイグは過剰に反応し、利用価値がなくなったからと離婚すると言い出した。
なぜ財政事情が悪化していたのか、マティルダの実家を失うことが何を意味するのか、クレイグは何も知らなかった。
酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。
子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。
ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。
それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。
そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる