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⑤
しおりを挟む誰もがあの女を見て冷めた表情、もしくは軽蔑の眼差しを送っていたが、裁判長の言葉を守り黙っている中、ヒステリックに叫ぶ姿は酷いものだ。
新聞記者に至っては。
「酷いな」
「こんな被告人初めてだ」
「ああ…」
ひそひそ話ながらシャッターを切っている。
内容は聞こえているし、ある程度予想ができていたのだが、ここまで思い通りに行くとは思わなかった。
「叔父様、あの馬鹿家族はこの度の裁判の意味を解っていないのではありませんか」
「流石にそれはないだろう」
今日の裁判にて被告人は、あの女で、訴えた側はライアスだ。
リサがこの場にいないのは故意的にで、私は病気で参加していないと告げている。
被害者であるが、この度の裁判で表沙汰にしないようにする為に、ライアスが表に立ってくれたのだから。
「被告人側、静粛に!」
「逃げたのね…最低な女」
しかし、あの女の発言で気づいた。
「あそこまで馬鹿だったとは」
「自分が被告人だと解ってませんわね。しかも訴えられるのはあの馬鹿男と思い込んでますわ」
「ああ、弁護士が耳打ちしているな」
ちゃんと説明を受けているはずだ。
こちらの手紙も届けてあるし、第三者から説明を受けているのに、どう勘違いをしたのか。
裁判長も頭を抱えていたが、裁判が始まれば判るだろう。
自分たちの立場を。
「それでは被告人、サンディ・シンパシー。この場に貴女は、まだ赤ん坊の娘に対して育児放棄をし、その世話を元義妹に押し付け精神的に追い詰め、夫には嘘を吐き続け金銭的虐待を受けたというのは事実ですか」
「違います!でっち上げてです!」
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「それは…元義妹が暴力を!」
「被告人に発言の許可は出していません。静かに」
「でも…」
「サンディさん。黙ってください」
被告人は聞かれた時以外は発言を許されていないのに、撤回したが為に声を荒げていた。
既に裁判長の判断は白か黒か決まっているようにも思えた。
だが、あの女の暴走はここで終わらなかった。
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