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⑫
しおりを挟む先に外堀から埋めることにした私は仕事先に連絡したけど、同僚からは嫌われ、上司からも出勤に問題があり過ぎるとのことだった。
「解雇する理由ができました」
「申し訳ありません」
「グレイス夫人が頭を下げる必要はありません」
縁を切ると言えど、まだ義娘ということになるのでお詫びを入れて同僚の皆さんにも謝罪したけど、私を責めることはなかった。
なんていい方たちなのかしら。
普通なら暴言を吐かれてもおかしくないのに。
仕事先では、既に解雇することが決まっているそうだ。
次に公的機関に連絡してミレイの保護に関して相談した。
通常離縁しても余程の事がない限りは母親側が引き取ることになる。
虐待をしていると言っても証言は甘い。
現場を押さえない限り難しいと言われてしまう。
だからこそ、サンディさんが無職になり、収入がない状態になれば可能性が高くなる。
「書類はこれとこれね」
やることが山のようにあるけど、大事な孫の命がかかっているなら疲れたなんて言ってられない。
「そろそろ時間ね」
今日の夕方には帰ってくることになっている。
あの後脅迫をしてすぐに帰らせるように脅したおかげですぐに動いてもらえた。
「母さん!」
「ライアス!」
久しぶりの息子の姿はすっかりやつれてしまっていた。
「ああ…なんてこと」
「母さんごめん」
ボロボロの息子を見て、怒りを覚えた。
こんな仕打ちをされて、黙っていられないけど。
今は最優先なのはあの一家だわ。
「ライアス、今はゆっくりしている暇はないわ」
「手紙を読んだよ…中々サンディから手紙の返事が来なくて…僕も領地で身動きが取れなかったんだ」
会計士として優秀なライアスは領地から出してもらえなかったそうだ。
この子がいないと財政難になるし、面倒な仕事が増えるかららしいけど、そんなの知った事じゃないわ。
「サンディさんはもう…」
「解っているよ。僕も覚悟を決めたんだ…だけどミレイは」
解っているわ。
ミレイは貴方の娘なのだから。
「その時は全力でサポートするわ」
「ありがとう母さん」
選ぶというのは辛いわ。
何かを捨てなくてはならないのだから。
疲れ切った息子の手を握りながら私が身を寄せている修道院に戻ることにした。
「誰か来ているのかしら?」
「本当だ。随分いい馬車に…」
修道院の前には立派な馬車が止まっていた。
「グレイス!」
「院長先生?」
「お客様です!すぐに中に!」
普段冷静沈着な院長先生が珍しいと思った私は悪い予感しかしなかった。
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