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⑦
しおりを挟むこの時私は最悪な選択をしてしまったのではないだろうか。
そう思えてならなかった。
夫婦の形はそれぞれで、これだということはない。
だけど元姑と同類の母親に溺愛され育ったサンディさんはとても我儘だった。
環境が違うのだから仕方ないのだけど。
息子の仕事が多忙で家に帰るのは夜遅くで出勤は朝早く。
最初こそは見守っていた。
手伝ってあげたいけど、ここで私がしゃしゃり出るのは良くないわ。
私の時の前例があるから。
けれど、事態が変わったのはサンディさんが子を身ごもったのだ。
今までのようにはいかなくなった。
私は使用人の派遣をしたり妊婦のお世話をしてくれる友人に頼み込んだ。
気のいい人たちで、快く引き受けてくれたのだ。
その代わりちゃんとお給金を支払い、私が勤めている学校に入れるように手配をした。
「本当にごめんなさいね」
「グレイス先生の頼みなら断れませんよ」
「そうです。それに臨時収入と思えばね?」
医療の明るい元同僚と、一時は宮廷官僚補佐として働いていた経験のある友人は頼もしかった。
これまで問題のある主に仕えていたので精神力、忍耐力もあるようだったが。
「お義母さん!こんな使えない人を派遣して嫌がらせなんですか!」
「は?」
所が、サンディさんは私の友人のサポートをことあるごとに文句を言い。
友人を侮辱した。
「妊娠中の私に嫌味三昧ですよ!これじゃあ流産するわ」
「そんな!私は妊娠中は少しの運動も必要だと…」
「それにもう少し食事も気を配るべきだと…」
二人は良かれと思いした行動はサンディさんにとっては嫌がらせだと言い出したのだ。
「それにご友人なのにお金を払うなんて…最低だわ」
「なっ…何を言うの!正当な報酬額よ」
「お義母様は世間知らずなんですね」
この言い草。
到底我慢できるものではないわ。
それに二人には本来支払うはずの報酬額よりも少なめだった。
友人なのだからと言ってくれたのよ。
「通常、医療の資格を持つ方を雇うのにどれだけの費用が掛かると思っていて?」
「その程度も支払えないんですか。当てがはずれたわ…夫は役立たずだし」
「グレイス、私はこんなモンスターは初めてよ」
「ええ…」
二人も心底疲れ切った表情だった。
私は急ぎ息子に手紙を書き、できるだけ早く帰るように伝えた後に私が出産の手伝いをすることにした。
友人には本当に悪いことをしたと思った。
けれどそれが、私が家を出ていくことになるのだった。
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