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③
しおりを挟むいずれ授かれたらと思った。
だけど既に授かっていたなんて知らなかった。
「本当に?」
「ああ、君は子供を身ごもっているだからこそ。こんな環境はお腹に子に悪いし、僕も皇室家庭教師に選ばれたんだ」
「まぁ…皇室家庭教師に!」
平民である教師が皇室に招かれるなんて確率は少ない。
なのにすごいわ!
「音楽教師として、是非にと言われてね。これで収入も上がるし、君に楽をさせてあげられる」
教職の収入は高くない。
貴族のい邸で家庭教師をしていれば別だが、一般の学校では食べていくのでやっとだ。
でも皇室家庭教室となれば待遇も良く、住まいも保証してくれる場合もあるのだから。
「ずっと僕の為に我慢をさせてごめん。でももういいんだ。もう耐えなくていい」
「貴方…」
「弱い立場の人間を傷つけ悦に浸るような醜い心を持った大人の周りに大事な我が子を見てどう思うか。僕はこんな汚らわしい人間の…魔の巣窟を子供に見せたくないんだ」
「なんですって!」
「貴様!何様だ!」
夫の言葉に義兄と姑が大激怒した。
これまで見下していた弟が反抗したと思っていたのか。
でも本当は違う。
夫は結婚当初から私への扱いの酷さに我慢できず、親子の縁を切ろうかと考えていたのだ。
だけど、人間相性というものがある。
だから止めたけど、もう限界だったのかもしれない。
皮肉な事に夫は限界で、子供を授かった事で縁を切る覚悟ができてしまった。
「待って…考え直して」
「そうだ!子爵家の後ろ盾を失うのだぞ」
「借金地獄の後ろ盾などいりません。遺産も相続放棄します。ですが、借金の方が遺産よりも多いでしょうが」
「何…」
夫の実家はずいぶん前に傾き、それでも姑は金遣いが荒く慎ましやかな生活ができなかった。
一度覚えた贅沢は忘れることができず、借金は膨れ上がっていた。
義兄は知らなかったのね。
知っていたのなら…
「母上、借金はどの程度あるんですか」
「解らないわよ!そんなの」
「自分が作った借金、それから見栄を張る為に兄上に援助しようとした借金、父上が愛人に貢いだ借金。ああ兄上が娼館に通った借金も肩代わりしてましたね」
「止めて…止めてよ」
優しい夫はこれ以上ないほど怒っていた。
ここまで暴露すると言事は縁を切るのは決定打ということね。
「何で…うわぁぁぁん!」
「いい大人が泣かないでください。泣けば思い通りになるなんて思わないでください」
その日、夫は家族と完全に縁を切り婿入りをしたのだった。
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