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庭園で一人の老人がバーベキューで海産物を焼いている。


どこぞのご老人がバーベキューをしている。
服装は本当にシンプルで、お世辞にも商人や貴族に見えない。


そう、いうなれば農民の装いだ。



ここは皇族の別邸のはず。
なのに、庭園というよりも畑が広がっている。


主に野菜尽くし。


「ここは…」


「伯父上の別邸だ」


「あの…庭に菜園が」

「伯父上の趣味だ」


「はぁ…」


馬車は、門を通り抜けた後に止められる。
ここからは歩きだと言われるも、歩いても歩いても邸の出入り口が見えない。


そんな中、香ばしい香りがする。


「これは…誰かが魚を焼いているのかしら」

「叔父様」

「言うな。誰かなんて言うまでもない!」


死んだ魚のような表情をする旦那様と遠くを見つめるお嬢様。


そんな中、トングを片手にこちらに向かってくる男性。


麦わら帽子を被っている。
しかも長靴を履いて、バーベキューには不向きだった。



「よく来たね」


にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべる男性に私は首をかしげる。


けれど老人は気にすることもなく私に話しかける。


「ちょうどよい具合に魚が焼けたところじゃ。どうじゃ?」

「へ?」

「うまいぞ」


いきなり魚を差し出されてしまう。
いいのかしら?


ここは先帝陛下の別邸。
マナー違反ではないかと思ったが。


「それとも私の焼いた魚が食えんか?」

「いえ…ですが、ここで食べてよいのか」

「かまわん。私が許す」


「はぁ…」

断れずその場で立ち食いをしてしまった私だが…


「まぁ!美味しい」

「ほぉ?なかなか味の解るお嬢さんじゃな」

行儀悪いと言われるかもしれないけどこうやって食べたほうがおいしいこともある。


でも本当にどなたなのかしら?


「ほれ酒を飲め」

「はぁ…」

断るにもまたしても訴えられる。


「私の酒が飲めぬのか?」

なんていわれたら断りにくい。


でも、久しくこういうのもいいなと思ってしまった私はかなりリラックスしていたのだが。


「伯父上!」

「えっ…」

背後で旦那様が真っ青になって声を荒げる。


「何だヨハネス。お前も欲しいのか」

「そうではなく…」


「お嬢さんこちらも食べるといい」


既に味なんて忘れてしまった。

まさか目の前でバーベキューをしているお爺さんが先帝陛下だったなんて誰が思うだろうか。





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