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70③
しおりを挟む首都への道のりは一日かかる。
馬車と船を利用して向かうことになっているのだが、失念していた。
「この船は…」
「ああ、想像していたよりもこじんまりしているな」
「ええ、海賊船でないだけましかしら」
眩暈がする。
現在港に止まっているのは歴史書でしか見たことがない立派な豪華客船だった。
「何故…」
「普通の船よりもゆったり過ごせるからだろう」
「一日だけですよね」
「ああ、一日ゆっくりとな」
忘れていたわ。
旦那様も資産家で、莫大な資産を持つ方だった事を。
「私はこんな大きな船に乗るのは初めてで」
「なら楽しもうか。宮廷料理人と音楽家も派遣されているだろう」
「もう何所から突っ込めばいいか解らないわ」
「さぁリサ」
戸惑いながらも旦那様にエスコートをされ船に乗ると、別世界だった。
「夜には舞踏会が行われる」
「まさか、ドレスを用意したのは」
「勿論、夜の為だ」
お部屋に案内された後も豪華絢爛なお部屋だった。
なのだけどお嬢様が不満そうだった。
「叔父様、どうして部屋を二部屋取られなかったのです」
「一人で寝かせることになるだろう」
「私はもう一人で眠れますわ」
「時々私に添い寝を強要する癖に何を言うんだ」
「なっ…今言うことですの!」
真っ赤になって怒るお嬢様は年相応だわ。
こういうときのお嬢様を見ると安堵する。
環境と立場がお嬢様を子供でいる時間を失くした。
けれど旦那様はお嬢様を子供として接している。
大人びていてもまだまだ子供だからこそ、旦那様だけは同じように接している。
それにお嬢様は夜一人で寝るのは難しい。
ご両親を亡くした日の事を思い出すから魘されるとのことだ。
「言っておきますが、今は一人でも大丈夫ですわ」
「そうだね、隣にアントワネットが傍にいるからね」
「もう!」
アントワネットとは、お嬢様のお気に入りのテディベアだ。
数年前に旦那様がプレゼントしたそうだが、今でもベッドに置いているとか。
なんて可愛らしいのかしら。
「先生、早く着替えましょう」
「はい?」
「何を呆けていますの?この後ディナーですわ。勿論夜景の見える最高の席で」
私は固まった。
お嬢様を愛でている場合ではなかった。
結局ドレスアップしした後に最高のフルコースを堪能した後に、豪華絢爛な舞踏会で旦那様とダンスを踊ったのだった。
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