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60②
しおりを挟むあの日、商会にシンパシー夫妻が強引に押し入ってきた日。
「嫁をリサをお返しください」
「何を!」
「貴方」
完全に頭に血が上っている夫。
私もリサが受けた仕打ちは許せないでいた。
でも、その一方で怒りとは別の感情を抱いた。
「ここでは話ができませんわ。どうぞ」
「セレナ!」
「このままではお客様にも迷惑がかかりますわ」
他の使用人にも危害を加えられては困るわ。
「物々しいわね」
「歓迎されているとお思いですか。約束も無しに殴り込みのような真似をなさって」
「そんなつもりは!」
「ですが使用人を怯えさせたのは事実です」
当初、商会に殴り込みに近しい真似をして、受付嬢を怖がらせ、他の職人も困惑していた。
怪我人が出なかったのは伯爵様が派遣してくださった護衛騎士の皆さんのおかげだった。
「護衛騎士を同行させていただきます」
「何故ですか」
「部屋で何かされてはたまりませんわ」
言い方が悪いかもしれないけど、この二人は既にまともな判断が出来なくなっている。
勢い余って怪我をさせられては困るのだから。
「貴方達は既に他人。いいえ、私達の大事な娘を傷つけた元夫のご両親です」
「なんて言い方…」
「私達はそんな真似をしていない!そもそも貴女達の娘の根性がないからだ。あの程度で…近所にもあることないことを言いふらして私達を悪者にして!」
「おのれぇ…」
ここで焦ってはだめだわ。
噂の出所に関してはリサは関与していない。
「私の娘は人様の事をあれこれ言うように育てた覚えはありませんわ」
「そんなの…」
「まぁ、貴方達にはもう関係ないはずです。離縁は成立しましたし、私の娘では満足できないのでしょう?でしたら他に良い方と再婚なさいませ」
既に教会も許可を出している。
特別な処置で、夫側の許可は必要ない。
「離縁は認めておりません!」
「そうだ!何故本人は…」
「娘は精神的に痛めつけられ療養中です。伯爵様のご厚意で医師を呼び治療していますわ」
「そんなの大げさだわ」
正直、この話し合いに意味がないと思っている。
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「なっ…」
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「聞けば娘は母性がないとおっしゃったと報告を受けました。随分と酷い事をおっしゃるのですね…他人の赤ちゃんを見るのはどれだけ大変か」
「他人って…夫の姉の娘です!」
「だとしても他人ですわ」
リサにとっては他人同然だったのだから。
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