上 下
50 / 169

50

しおりを挟む





傷も塞がり、体調も戻った私は心穏やかな日々が続いていた。
ただ、このまま伯爵家にお世話になり続けるのはどうかと思った。


離縁の手続きも終わり、正式にシンパシー家と関係を断つことができた今、一人で生きた行く覚悟だ。



なのだけど。


「リサ、帰ってきてもいいのよ」

「お母さん」

「そうだ。私達はまだまだ元気だ。世間体を気にする必要ない。何だったら今度はもっと良い相手を探してもいいんだ」


「少し懲りているわ」


学生時代、ロンドと出会った頃の私は狭い視野だった。

けれど私は彼を愛していたのは本当だ。


「もう愛情はないのだけど、ロンドを愛していたの。結局私は殿方を見る目がなかったのかしら」

「リサ!人は過ちを犯すわ!完璧なはずないわ」

「むしろ子が生まれる前で良かった。そうでなければ」


二人の言うことは解っている。
万一子供が出来ていたら私は逃げ場を失くしていたはずだから。


子供を人質に取られるだろう。


そこまで考える私はなんて性格が悪いのかしらね。


「リサ、また自分を責めているわね‥‥悪い癖よ」


「そうだ。私達はお前に苦労をかけすぎました」


申し訳なさそうな表情をする二人になんて声をかけていいのか解らない。

そんな時だった。


「失礼します」


「旦那様?」


「お二人共いらっしゃってよかった」


何時も温和な笑みを浮かべていらっしゃるのに、とても真剣な表情だった。


しかも手には薔薇の花束を手に。


かなり上等な薔薇だわ。



「リサ、正式に伯爵家に永久就職をして欲しい」

「はい?」


「いや…遠回し過ぎたな。マリーの母親になってくれないか」


「あっ…あの」


いまいち意味が解らない。
私は恐れ多くもお嬢様の保護者役という事でこの伯爵家に雇われているのだけど。


「いや…母親というか!私の妻になって欲しい!」

「えっ…」


私は息をするのを忘れてしまった。


「伯爵夫人になって欲しい。君を愛しているんだ…十年前からずっと」


「だっ…旦那様」


「法律上、離縁して半年未満は再婚はできない。特例以外は…だが私は五年でも十年でも待つ。だから前向きに考えて欲しい。私は君以外を妻に迎える気はない」


唖然とする私に旦那様は薔薇の花束を差し出す。


「君が幸せならばと諦めた身だが、無理だった…だから子爵夫人に頼み込んで君をマリーの家庭教師にと頼んだ」

「そうだったんですか…」


「ああ、姑息な手段を使った。せめて近くで君を見たかった。見ているだけで幸せだった」



この方は何でこんな言葉をポンポンいうのかしら。
恥ずかしくて聞いていられない。

そもそも旦那様の思い人が私だったなんて。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

私が我慢する必要ありますか?

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? 他サイトでも公開中です

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

処理中です...