35 / 169
35
しおりを挟む邸の前で別れたはずの三人だった。
「証拠はばっちりですよ。子爵夫人」
「いい仕事をしてくださいましたわ」
まるで打ち合わせをしたかのようだった。
そもそも、このタイミングで皆さまがこの場にいることに疑問を抱いていた。
「私に連絡をしてくれたのはこちらにいらっしゃる御三方です」
「え!」
「以前から、リサが彼らに虐げられているのではないかという疑いを持っていたそうですが、動けませんからね」
溜息をつく奥様にスコット先生が教えてくれた。
「帝国内でも女性への虐待を罰するのは難しいんだよ。子供の虐待何て役人が保護したくて注意を促すだけだ。私が以前にも通報したんだ」
「通報…」
「でも、リンダはこの通り泣き落としが上手い。まぁ本人は自覚がないから余計たちが悪いし、証拠が少ない」
「いざ裁判になっても証言者の言葉は当てにならない。コロコロ変わるもの」
「だから物証と動かぬ証拠が必要だった。だから少しばかりここを使ったんだよ」
頭を指しながら告げた三人には頭が上がらない。
あの時点で彼女達は作戦を決行していたということになる。
「でも、先ほど」
「勿論、あの時点で私達は強行突破というのは気が引けたよ。せめて離縁にもちこめればと思ったんだ」
「私達は子供を守る立場だ」
親を戦争で亡くした子供や、若い女性を保護している彼女達は悩んだ。
万一、シンパシー家を公で罰したら当人同士の問題で終わらないからだという。
「だけど、リサちゃんがあまりにも不憫でならなくてね」
「何を言っているの!」
力なく座り込んでいた義母が声を荒げたが、スコット先生は動じることはなかった。
まるで子供に言い聞かせるような言い方をしたのだ。
「リンダ、アンタはまだ解らないのかい?」
「スコット先生、もう無駄です」
「自分の娘可愛いさに嫁を蔑ろにして、消耗品のように使っても罪悪感を抱かないなんて」
「だから同居は娘天国嫁地獄って言われるんだ」
一時騒がれた言葉だ。
野蛮な言葉だと一部では批判されていたが、身を持って経験したので痛い程理解できる。
「同居ってのはお互いを思いやる心がないと成立しないだろ!アンタはそんなことも解らず何が母親だ!」
「貴女に何が解るのよ!私は間違った事をしていない…していないのに!」
「泣くんじゃないよ。泣けばなんでも思い通りになるなら私も泣こうか?」
「あら?じゃあ私も泣くわ。えーん、えーん」
「ちょっと、いい年下おばさんが痛すぎるわよ。でも、リサちゃんならありですよね伯爵様」
緊迫した状況だったはずだ。
なのに空気が少し緩み、何故か旦那様にもその被害が及んでいた。
旦那様は視線をそらしていたが。
「叔父様、顔に出てますわ。先生が泣いておねだりしたら邸ぐらい建てますわよね?」
「おいアン!」
「半分冗談ですわ」
お嬢様、その冗談は笑えません!
3,232
お気に入りに追加
5,422
あなたにおすすめの小説
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
【完結】契約妻の小さな復讐
紺
恋愛
「余計な事をせず、ただ3年間だけ僕の妻でいればいい」
借金の肩代わりで伯爵家に嫁いだクロエは夫であるジュライアに結婚初日そう告げられる。彼には兼ねてから愛し合っていた娼婦がいて、彼女の奉公が終わるまでの3年間だけクロエを妻として迎えようとしていた。
身勝手でお馬鹿な旦那様、この3年分の恨みはちゃんと晴らさせて貰います。
※誤字脱字はご了承下さい。
タイトルに※が付いているものは性描写があります。ご注意下さい。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる