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しおりを挟む早朝の時間なのに近所の人達の視線が気になった。
普段なら挨拶をするか会釈してくれるのに、どうしたのだろうか。
「おはようございますスコット先生」
「ああ、おはよう…アンタ昨日は」
「はい、昨日は家庭教師の日でして、お嬢様の社会勉強で少し遠出をしまして。その後一晩泊っておりまして」
「そうだったのかい。そうだよね」
安堵したように胸を撫で下ろすも、未だに浮かない表情をしている。
「スコット先生、何かあったのですか」
「ああ…アンタ達!いつまでじろじろ見てんだよ!こっちに来な!」
スコット先生の言葉にビクつく奥様方はゆっくりと私に近づく。
「リサちゃん、本当に仕事だったのかい?」
「追い出されたんじゃないかって心配してたんだよ」
「馬鹿だね、家出だろうに?」
追い出されたとか、家出をしたとかどういうことだろう?
「無理もないだろ?リンダ達はリサちゃんに対して…ねぇ?」
「私だったら耐えられないよ。自分の娘があんな酷い仕打ちをするなんて」
何故か涙を浮かべていた。
噂が飛躍しているのか、それともまた別の噂が流れたのか。
「大体あの噂だって、自業自得じゃないか」
「ああ…義姉の子を奪ったとか言う噂かい?」
「はい?」
私がミレイを奪ったって何?
「リサちゃん、今街中で噂が流れてんだよ。まだそこまで広がっていないんだけどね」
「サンディーが頻繁に里帰りしていただろ?それで噂が流れたんだよ」
「広いようで狭いからね」
「頻繁に里帰りし過ぎていると悪い噂が流れるんだよ。嫁ぎ先で上手くい言ってないぐらいならまだいいんだけど。噂の中ではミレイちゃんがリサちゃんの子供で養子に出したとか」
「何です?その噂は…」
「それはまずないわ。だって…ねぇ?」
妊娠しているのを隠すにも限度がある。
それに彼女達は子供を育て終えた世代でもあるのだから解るはずだ。
「噂の中には、アンタがミレイちゃんを可愛がって無理を言ってサンディを留めているとか。子ができないから姪を奪おうと考えてるとか」
「酷い…私は義姉が育児の手が回らないからと!」
そんな噂が流れているなんてあんまりだわ。
私は一度だって自分からミレイの世話をしたいなんて言ってないわ。
「だろ!私は否定しておいたよ」
「私もだよ。第一どこの世界に他人の子供を自分から世話したいなんて言うのかね」
「勿論、近所で子供が生まれたら可愛がってあげたいけど、限度があるだろ?」
子供好きの奥様達でもすべての世話をしようとは思わない。
当たり前だ。
「例え孫でも四六時中世話だなんて無理だよ」
「なのに、リサちゃんは本当によく頑張っているわ。普通無理よ」
「だから、私達はリサちゃんが疲れ果てて家をでたんじゃないかって」
「中にはロンドと口論になって追い出されたんじゃないかって心配してたんだよ」
背中をさすりながら私を慰めてくれることに申し訳なさを感じながらもちゃんと見てくれる人は見てくれるんだと思った。
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「何を言うんだい!アンタは悪くないだろ」
「そうだよ。育児ってのは実の子でも投げ出したくなるんだよ」
私が辛いと思うのは当たり前の事。
途中で逃げ出してもおかしくないと言ってっ貰えて安堵した。
「こんなことは言いたくないけどね、考えた方がいいんじゃないか」
「そうだよ。このままじゃ…」
スコット先生を初め皆さんもお嬢様と同じ表情で同じような事を言い出した最中。
「リサ!帰っていたのか!」
ロンドが邸から出て来た。
一日だけなのにかなりくたびれた表情をしていた。
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