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しおりを挟む伯爵家に戻ると何故か慌ただしかった。
「裏に回って」
「はい、お嬢様」
窓から様子を見ようとした時だ、お嬢様が私の手を掴む。
「今外を見るのはよろしくありません。嫌な予感がしますの」
「予感?」
お嬢様が外から馬車の中が見えない用意しっかりとカーテンを閉める。
ただし外から見えなくとも中から外がはっきり見えるような特別な仕組みなった馬車だ。
「あの馬車は…」
「やっぱり、来てましたのね。本当に最悪な連中」
普段このように悪態をつくことはないのだけど。
「招かざる客が来たようですね」
「もはやお客様ではなくてよ」
御者の日とも目が怖かった。
基本ティンファニー伯爵家の使用人は下級貴族出身や、身分が低くとも貴族かそれに近しい身分で人当たりも良い方が多い。
なのでこんな態度を表に出すことはないのだけど。
「リサ先生、このまま裏口に回りますが。合図をするまでお顔をお出しにならないようにお願いします」
「念のために先に私が出ますわ。いいですか…絶対に先に馬車から出ないでください」
念入りに言い聞かせるお嬢様にこれ以上何も言えなくなった。
馬車はゆっくりと裏口に回ろうとした時だ。
口論する声が聞こえた。
「ですから、先生はお嬢様とお出かけです」
「でしたらすぐに帰るように伝えてください」
「そんな事できません。お引き取りを」
口論の声は義母だったことに私は絶句した。
「どうしても今すぐ帰ってきてもらいたいんです。孫がぐずってしまって…」
「すぐに妻に帰るように伯爵様に命じてくれと言っているんだ。仕事と言いながら遊んでいるんだろう?」
義父と夫まで。
義母の腕の中にいるのは…
「ぎゃああああん!」
思いっきり泣いて暴れているミレイの姿が。
「先生、出てはなりません」
「ですが…」
「ここで先生が出たらなんと言われますか?町に出ていたことを咎め、勝手な思い込みで先生い暴言を投げかけるだけで終わりますか?」
きっとエステで磨かれた私を見て罵倒を浴びせるだろうか。
自分達はミレイの世話で大変な間に遊んでいたのかと。
「先生は私に家庭教師の仕事をしていたのですわ。それを彼らは理解していない…どうせ普段から我儘なお嬢様の暇つぶしの相手をしているだけとでも思っているのでしょう?」
「そんな…」
伯爵家の家庭教師は名誉ある仕事だ。
貴族のお邸で家庭教師ができるのは数少ない。
狭き門だ。
平民である私にとって身に余る光栄なのだから。
「私は一度でもそんな風に思ったことはございません」
「でも世間はそうみないわ。実際私が我儘放題を言って過去に家庭教師を解雇させたわ」
当時のお嬢様は大人の愛情を信じられず、旦那様に対しても愛を試すような事をした。
我儘の裏返しは愛されているか試したかった。
追いかけて欲しかったのだ。
幼くして一度に両親を亡くした喪失感は相当なものだったはずだから。
そんなことはないと言いたかった。
でも――。
「先生は本日お泊りいただく予定です。お嬢様の…」
「家庭教師と言っても、幼いお嬢様の遊び相手でしょう?」
私の言葉を遮るように聞こえた言葉に絶句した。
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