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しおりを挟む社交界の生ける真珠。
またの名を真珠夫人と呼ばれていた。
数多の男性を虜にするほどの美しい容姿。
歌うような声に美しい白い肌にサファイヤのような瞳。
彼女が微笑むとまるで春が訪れたようだと思わせる。
女神も嫉妬する程の美しい女性で結婚してもその美しさが劣ることはない。
その一方で美貌と体を使い、子爵様をたぶらかしただけでは飽き足らず、高位貴族にも手を出し権力を振りかざす至上最悪の悪女。
極悪魔女とも酷い噂を流されている。
けれど、そんなものは噂に過ぎないのだから。
平民で貴族の奥様になったことで嫉妬の対象となっていたが、もう一つ理由があった。
上流階級では政略結婚が暗黙の了解だ。
平民であっても商家等の裕福な家柄は利益を優先して結婚相手は親が決める。
にも拘らず、大恋愛の果てに結婚したのだから周りははしたないと思うだろう。
結婚当時はあの手この手で嫌がらせをした人は多かったが、奥様は頭の回転が速く嫌がらせを利用して敵対する貴族を吊し上げにしたとか。
現在では高位貴族からも無理できない存在となっている。
流行に関しては右に出る者はおらず、無視できない存在である。
実家の商会にもよく顔を出してくださり、大事なお得様ではあるのだけど。
ただ一つ問題がある。
生粋のお嬢様ではなく、酸っぱいも甘いも経験したこともあってか、敵には一切の情けがない。
万一だ。
私が嫁ぎ先での現状を知った後に、シンパシー家に何かしないだろうか。
「先生、大丈夫ですか?」
「お嬢様…」
「さっきから心ここにあらずですよ」
腕を掴まれてようやく気づく。
考え事をしている所為で、お嬢様に声をかけられていることに気づかなかったのだから。
「リサ先生、やはり同居は相当負担になっているんじゃないか?」
「いいえ、まだ慣れていないだけです。最近は少し慣れてきましたし」
「本当か?」
不安そうに私を見つめるは旦那様。
こんなことを思ってはかなり失礼なのだけど捨てられた子犬のようだと思ってしまった。
「こんなに痩せてしまって、やはり同居は解消した方がいいんじゃないか」
「最初から反対したとおりだわ!貴族でも同居は姑の嫌がらせが酷いって聞くのよ」
「まぁ、否定できない」
通常、貴族の奥様は使用人がいるので下働きのようなことはないだろうけど。
邸の奥向きの事を指図されて、部屋の隅っこに追いやられると聞いたことがある。
それに比べれば家事を押し付けられるぐらいはマシなのかもしれない。
私も、独身時代は数名の使用人が世話をしてくれていたので、箱入りだった。
家事などは教わったけど、ここまで大変だとは思わなかった。
もしかしたらこれが普通なのかしら?
他所の平民の家庭はもっと苦労しているのかもしれない。
義母は決して悪い人ではない。
底意地の悪いことはしているという意識はないのだから。
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