上 下
12 / 169

12

しおりを挟む





家事育児は嫁がするのが当たり前。
その考えを否定する気はないけど、手伝ってもくれないのか。


「おや?リサちゃん」

「あっ、おはようございます」


寝不足の状態で、早朝の水汲みをしていると隣に住んでいるスコット先生が洗濯物を干していた。
孤児院を運営しており、元は王立学園の教師で結婚と同時に退職した後に旦那さんが慈善活動をしており、その事業の一つ、孤児院や、小学校を設立している。

その補佐をしており、私も家庭教師という立場故に色々教わっている。
休みの日は孤児院の子供達に勉強を教えたり、炊き出しを手伝ったりもしている。

「いつの間に子供を産んだんだい?」

「いえ、この子は」


「あー、サンディが帰ってきているのかい」

「はい」


私の子供と間違えそうになったがすぐに気づく。


「貴女の子供だったらサンジュが自慢しているはずだからね」

「はっ…はは」


「久しく娘が里帰りしているから浮かれているのでろうね…でも、大丈夫?」


心配してくれるスコット先生に申し訳なくなる。
正直大丈夫ではないけど。


「顔色が悪いし、まだこの時期の赤ちゃんはすごく手がかかる。しかも他人ならなおさらね」

「まだ不慣れで…」

「不慣れとか関係ないよ。我が子でもこの時期の育児は逃げ出したくなる程しんどいんだよ」


じんわりと涙が流れそうになる。
誰も解ってくれないのにスコット先生は私の心の声が聞こえているのかとも思った。


「あー!」

「懐いているのね」

「そうでしょうか?」



スコット先生に手を伸ばし挨拶をする。
一晩だけだったのに、表情が豊かになったわね。


「きっとリサちゃんが好きなんだよ」

「だと嬉しいです。まだ至らなくて…」

「何言っているんだい?誰だって最初から母親になれないし、最初からできたら世の母親が怒るよ?私だって最初は母親としてダメダメで、ノイローゼを子供に当たりそうになったんだから」

「えっ?スコット先生が?」

「広い家の中一人でね。夫は多忙で家を空けることが多くて、お姑さんは厳しくて…毎日泣いていたよ。母親だって人間なんだから完璧じゃない…でも貴女は他人の赤ちゃんを面倒見て偉いよ」


どうしてスコット先生は私の欲しい言葉をくれるのかしら。
誰にも認めて貰えない、ダメな母親になると思う夫の言葉を洗い流してくれるようだった。



「不安で…全然上手くできなくて」

「誰だってそうだよ。サンディだって逃げたくて貴女に預けたんだ。貴女はよくやっているよ」



温かい。
スコット先生に手を摩られ私は涙を流した。


そうだ。


私はロンドにこうして欲しかったんだ。

初めての育児で苦戦している私の心に寄り添って欲しかっただけだったのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

離婚したらどうなるのか理解していない夫に、笑顔で離婚を告げました。

Mayoi
恋愛
実家の財政事情が悪化したことでマティルダは夫のクレイグに相談を持ち掛けた。 ところがクレイグは過剰に反応し、利用価値がなくなったからと離婚すると言い出した。 なぜ財政事情が悪化していたのか、マティルダの実家を失うことが何を意味するのか、クレイグは何も知らなかった。

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

私が我慢する必要ありますか?

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? 他サイトでも公開中です

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。  元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。  出ていくのは、貴方の方ですわよ? ※カクヨム様でも公開しております。

処理中です...