上 下
136 / 156
第一章

125身勝手な愛

しおりを挟む




唖然とするカーサはこの状況を飲み込むことができなかった。

「脅迫、違法薬物購入、監禁未遂に侮辱罪と罪状はキリがありません」


静かなる怒りをぶつけるグレーテルを誰だと思ったのだ。
自分の意見を言わず、常に婚約者に従う従順だったグレーテルはもうここにはいない。


(誰だ、この女は…違う)


自分に意見する生意気な女はグレーテルじゃない。
素直にはいはい従うのがグレーテルだと思い込んでいるカーサは動揺した。


「お前は誰だ…グレーテルを何所に隠したんだ」

「何を言っているのです。私はグレーテル・クロレンスです」

「違う!」


耳を両手で塞ぎ聞くのを拒んだ。
ここまでくれば駄々をこねる小さな子供のようなものだった。


「何所までも愚かな。自分の聞きたくないものは聞かない、見たくない現実を見ないなんて」

「黙れ黙れ黙れ!お前はグレーテルじゃない!」


何度も自分に言い聞かせていた。
何でも言うことを聞いて、素直に従うのが本当のグレーテルだ。


反論する女はグレーテルじゃないと思い込んだ。
既にまともな判断能力はなく、グレーテルはカーサが麻薬の餌食になっていたのだ。


「もう既に貴方も麻薬に侵されていたのですね」

「何を言っている…」


「冷静に判断することもできない状況。それから私はお酒は飲んでいませんから」


あの時差し出されたお酒には何か入っていると思っていたグレーテルは薬の入っている部分だけを飲まないようにしたのだ。


「グレーテル。お前はおかしい。変だ」

「私は正常です」

「そんなはずはない。本当の君は俺に従順だ。そんな冷たい目をしない。俺の出した酒を素直に飲み、俺の言うことを喜んで聞き、愛する俺の為にこれからも生きるのが喜びだろう?」

「愛する?」


「そうだ」


カーサの言葉は何所までも自部勝手な言い分だった。
今更傷つきはしないが、聞くに堪えなかった。


何より、カーサを一度でも愛したことはない。

「勘違いされているようですが、私と貴方の婚約は王命。私はすき好んで貴方と婚約したわけではありません」

「何を…」

「何所をどうしたら貴方を愛するというのですか。散々虐げて侮辱して蔑んできておいて」


婚約期間辛い事の連続だった。
それでも貴族の娘としての役目だと心を殺してきた。


洗脳に近い真似をされて受け入れてしまっていたが今なら解る。



心を取り戻した今なら断言できたのだから。


「私は貴方を愛したことは一度もない」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スローライフの闖入者~追放令嬢の拾った子供が王子様に化けました~

帆々
恋愛
ダーシーは王都の邸から追放された子爵令嬢だ。継母が彼女を嫌い、領地に追いやった。 荒れた土地を懸命に切り盛りして九年。 結婚も恋も彼女の前を通り過ぎて行き、すっかり田舎暮らしが板につく領主代理となっていた。 あるとき、幼い捨て子を見つけた。ダーシーは領主館に連れ帰る。コレットと名づけ、自分の子のように接した。 一緒に眠るほど可愛がったコレットが、ある朝成人した男性に姿を変えていた。 驚愕するダーシーに、 「僕だ。コレットだ」 と男は笑う。 さらに彼を探し求める近衛兵団がやって来て、彼をアリヴェル殿下と敬って————?! 後日、ドレスを贈られ、王宮に招かれる。 華やかな出来事をダーシーはアリヴェル王子の詫びと受け取った。 しかし、彼は彼女を婚約者だと主張してくるのだ。求婚された記憶もない。一方的な断定が彼女は納得できなかった。 婚期を逃した自覚が強く、結婚に夢もない。 さらに彼には残虐だとの噂もある。 自分を拒絶する王子は一旦引くが、再び彼女の前に現れる。 領地へ帰る彼女を自分が送ろうと申し出た。 近衛隊を率いた安全な旅が保証される。ダーシーは厚意をありがたく受けた。 旅を通して王子との距離が近くなっていく。イメージの王子と実際が異なり、彼女の頑なな考えも次第に変化していくことになるが———。 不遇な追放令嬢と残忍冷酷な噂のある第二王子。二人の恋のお話です。 ※小説家になろう様にも別タイトルで投稿させていただいております。※

【完結】私、噂の令息に嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私は、子爵令嬢。 うちは貴族ではあるけれど、かなり貧しい。 お父様が、ハンカチ片手に『幸せになるんだよ』と言って送り出してくれた嫁ぎ先は、貴族社会でちょっとした噂になっている方だった。 噂通りなのかしら…。 でもそれで、弟の学費が賄えるのなら安いものだわ。 たとえ、旦那様に会いたくても、仕事が忙しいとなかなか会えない時期があったとしても…。 ☆★ 虫、の話も少しだけ出てきます。 作者は虫が苦手ですので、あまり生々しくはしていませんが、読んでくれたら嬉しいです。 ☆★☆★ 全25話です。 もう出来上がってますので、随時更新していきます。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完結】記憶を失った令嬢は、不安になりながらも年下令息に想いを寄せ始める

まりぃべる
恋愛
気が付いたら、豪華な天蓋の付いたベッドの上だった。自分の名前も覚えていないエレーネ。 ここに居てゆっくり静養していいと言ってくれたが、どうやらものすごい裕福な貴族のお屋敷だったみたい。 その家の家族と一緒にいるのはとても心地良いのだけれど。 私、のほほんとここに居て良いのかしら。何か大事な事を忘れているような気がしてーーー。 ☆名前や思想が現実でも同じような・似たようなものがありますが全く関係ありません。 ☆作者の世界観です。現実で使われている表現とは違う言葉もあるかもしれませんが、緩い世界観です。 ☆いつもとは違う視点で挑戦して書いてみますので違和感があったらすみません。 ☆完結しておりますので、随時更新していきます。全22話です。 ☆読んで下さると嬉しいです。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

処理中です...