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第一章
125身勝手な愛
しおりを挟む唖然とするカーサはこの状況を飲み込むことができなかった。
「脅迫、違法薬物購入、監禁未遂に侮辱罪と罪状はキリがありません」
静かなる怒りをぶつけるグレーテルを誰だと思ったのだ。
自分の意見を言わず、常に婚約者に従う従順だったグレーテルはもうここにはいない。
(誰だ、この女は…違う)
自分に意見する生意気な女はグレーテルじゃない。
素直にはいはい従うのがグレーテルだと思い込んでいるカーサは動揺した。
「お前は誰だ…グレーテルを何所に隠したんだ」
「何を言っているのです。私はグレーテル・クロレンスです」
「違う!」
耳を両手で塞ぎ聞くのを拒んだ。
ここまでくれば駄々をこねる小さな子供のようなものだった。
「何所までも愚かな。自分の聞きたくないものは聞かない、見たくない現実を見ないなんて」
「黙れ黙れ黙れ!お前はグレーテルじゃない!」
何度も自分に言い聞かせていた。
何でも言うことを聞いて、素直に従うのが本当のグレーテルだ。
反論する女はグレーテルじゃないと思い込んだ。
既にまともな判断能力はなく、グレーテルはカーサが麻薬の餌食になっていたのだ。
「もう既に貴方も麻薬に侵されていたのですね」
「何を言っている…」
「冷静に判断することもできない状況。それから私はお酒は飲んでいませんから」
あの時差し出されたお酒には何か入っていると思っていたグレーテルは薬の入っている部分だけを飲まないようにしたのだ。
「グレーテル。お前はおかしい。変だ」
「私は正常です」
「そんなはずはない。本当の君は俺に従順だ。そんな冷たい目をしない。俺の出した酒を素直に飲み、俺の言うことを喜んで聞き、愛する俺の為にこれからも生きるのが喜びだろう?」
「愛する?」
「そうだ」
カーサの言葉は何所までも自部勝手な言い分だった。
今更傷つきはしないが、聞くに堪えなかった。
何より、カーサを一度でも愛したことはない。
「勘違いされているようですが、私と貴方の婚約は王命。私はすき好んで貴方と婚約したわけではありません」
「何を…」
「何所をどうしたら貴方を愛するというのですか。散々虐げて侮辱して蔑んできておいて」
婚約期間辛い事の連続だった。
それでも貴族の娘としての役目だと心を殺してきた。
洗脳に近い真似をされて受け入れてしまっていたが今なら解る。
心を取り戻した今なら断言できたのだから。
「私は貴方を愛したことは一度もない」
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