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第一章
120物証
しおりを挟む貴族派の残党狩りは成功した。
隠れ蓑に使われていた店から大量の物証と、これまで脱税をした証拠だけでなく、闇商人とのつながりになる証拠品が大量に出て来たのだ。
シャトル公爵家とも無関係だと言い訳をすることはできなかったが、その本人の消息が絶たれてしまった。
「何所に逃げたのかしら」
「逃げ足の速い男だ」
動きが知られないように綿密に計画をねっていたのにどこかで情報が漏れたとは考えにくい。
「今は残党を潰せたことを良しとするしかない」
「アスラン、ですがすべて終わってませんわ」
今日も、今日とてあの不愉快な手紙は続いている。
「まだ問題が残っています。シャトル公爵に関しては」
「父君か」
「はい」
モリアルがシャトル公爵を拘束する為に動いている。
グレーテルが自身で決着をつけなくてはならないと考えていた。
「この手紙も終わりにしたいのです」
「まさか!」
「手紙に私に会いたいと書かれています。下町の密会の宿に」
「密会の宿だと!」
手紙には二人だけでちゃんと話したいと書かれている。
立場を考えて人目のつかない場所を選んだので指定する場所に来て欲しいというが話をする場所としては適していない。
何故なら密会の宿は、不倫をする男女が用を足す場所だからだ。
アスランは怒りを覚えた。
呼び出しておいて無体を働くのは目に見えている。
二人は婚約を交わしたが、公の場では夫婦ではないのでその前に他の男と肉体関係を持ったらどうなるか。
「あの屑男が!」
「本当に何所までも最低な男。どうしてここまで落ちぶれたのかしら」
昔のカーサを思い出す。
あの頃は浮気はしてもフリーシアを一途に愛する男だと思ったのに、今は手段を選ばず自分の欲望の為ならどんなこともするようになっている。
「あんな男と二人きりで会うなんてダメだ!」
「アスラン、私はもう大丈夫ですわ」
「何が大丈夫なんだ」
既に一ミリの愛情もない。
今更どうこうなることはないのだから。
むしろこの場所を指定されたことで容赦しなくていいと思えた。
「過去にすべて決着をつけて来ます。ね?」
「ね?じゃないだろ!」
アスランは知っていた。
前世の頃から夫に従順な妻であったがいざという時の決断力が強く、時には夫に逆らうことも多々あったのだから。
この状況でアスランが何を言っても無駄だった。
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