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第一章
111過去の噂
しおりを挟む王都日報は国内でも屈指の新聞社だった。
ゴシップ記事を許さず真実を追求する新聞記者が多く身分問わず採用を行っており部署によっては貴族の醜聞を報道するが、あくまで悪事を暴くためであり、個人の恨みを晴らすものではない。
一方王都内にある小さな新聞記者はゴシップ記事を好むのだ。
中にはフリーの記者は脅迫目的でわざとゴシップ記事を出したりするのだがこのタイミングではありえないのだ。
「既に王都内で配られている、中にはこんなものまで」
「ほぉ?随分と殺されたいようだな」
街ではグレーテルの不義に関するネタがばらまかれている。
婚約破棄を言い渡したのはグレーテル側で、被害者のように書かれているカーサに憤りを感じざるをえないアスランだったが、本人は。
「まさしく小説のようですわね。まるで私が悪女ですか…婚約者がいながら平民の青年と恋をして不義を働き亡命の果てに同情を誘って女王陛下に媚びを売ったと…」
何所の三文芝居かと思うような中身のない内容だ。
「この新聞社は…」
「既にないようですわ」
新聞社は既になくなっている。
火事で建物は全焼しているとのことだが偶然なはずはない。
この新聞を出した関係者は揃って王都から姿を消している。
まるであから締め計算していたかのように。
「ただ、ここの記者に接触していた女性がいたそうで…映像が残ってましたの」
「これは…」
「あの女…」
見慣れた中年の女性だった。
ベレー帽をかぶっている男は顔は見えないが胸元のバッチを見て正体が解る。
「このバッチ、ギルドですね…でも」
「闇ギルドだな」
「解せぬな。このようなこと」
一同は利がなければ彼らは動かない。
しかも闇ギルドの下っ端に過ぎない男が協力した理由が解らない。
人は他人の幸福よりも不幸を好む。
グレーテルは今や光の中にいるようなものなので転落人生を描けば食いつくのは解るが、信憑性のないネタなど意味がない。
偽りを真実のように思わせて書くことは可能だが、明らかに嘘であるなら信じる人は少ないのだが…
ここまで噂が出回るということは信憑性が強いことになる。
なにより噂がに三日で回るなんておかし過ぎる。
速さが圧倒的すぎるのだ。
「裏で貴族が動いていると考えるのが妥当じゃ」
「ええ、その場合は…まぁ」
「私に恨みを持つ人間は少ないでしょう。目立ちませんでしたから」
下級貴族であるグレーテルはそこまで目立っていなかった。
不幸な女というレッテルはあったが、高位貴族からはそこまで恨まれるような目立つ行為はしていない。
となると別の理由と考えに至ったのだ。
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