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第一章
105不安要素
しおりを挟む「疲れた」
テーブルに頭を預けて脱力するグレーテルはもうよれよれだった。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
アスランが気を聞かせてお茶とお菓子を差し出す。
「まぁ、想像はしていた」
「していたんですか」
「ああ」
王妃が勅使として来る以上はやらかすと想定していたアスランだったが、表情にグレーテル程の疲れはなかった。
「貴方は普通ね」
「姉上がいないだけマシだ。二人揃ったらもっと惨い事になる」
「そう…」
軽くやりそうだ。
想像できてしまう自分が怖くなる。
「話し合いも一通り終わった。婚約の許可も取る必要はないが…一応筋は通しておいた方がいいからな」
「既に私はこの国の貴族ではないのだけど」
「だが、まだ貴族籍を除籍になっていない」
「はい?」
書類を見せれたグレーテルは確認すると、書類にはモリアルの貴族のままだった。
「恐らく現クロレンス当主の判断だろう。あくまで彼は領地代行を行っているだけという形にして、未だに父君の籍は残しているようだ」
「そうだったんですか」
「良い補佐を持たれたな。普通は財産事根こそぎ奪うのにな」
現在領主を務めてくれている者はかつて家令だった。
使用人でありながらもモリアルは補佐として、とても頼りにしていた。
領地の一部を引き継いでほしいとさえ思っていたのだ。
事業の半分の権利も与える程の信頼ができると判断していたのだから。
「私が幼少の頃からお世話になっていました」
「良い関係を築かれたんだな。だからこそ、彼らは踏ん張ったんだろう」
「はい」
モリアルが国を出た後も領民を守る為にどれだけ苦労したか解らないが、領地をしっかり守り、新たな領主に対して悪い噂を聞かなかったことから良き領主だったことは明白だ。
「対する他の領主は重税をして自分達の暮らしを守ったそうだな」
「ええ…」
領地持ちの貴族は宮廷貴族と異なりリスクを背負っている。
資産家でない限りは贅沢をしないのだ。
最近では変わってきているが、何代も続くまともな貴族は無駄な浪費はしない。
その理由は領民を飢えさせない為だ。
ただ領民の生活を守るよりも保身を優先させる者もいる。
その場合は――。
「不満が爆発した領地では一揆が起きている」
「前世でもありましたわね」
大人百姓達が領主が一揆を起こしたのを思い出したのだった。
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