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第一章
94二人の計画
しおりを挟むこの計画はアスランにも伝えていなかった。
容赦のない男だと第三者には言われているが、ユズリハからすればまだまだ甘かった。
婚約を無理強いしても拒否をして追い返す程度で終わる。
それだけでは甘すぎると考えていた。
「ユズリハよ。妾が許そう。好きにするがよい。殺す以外は何をしても良い」
「承知いたしました」
殺す以外と口にした王妃の意図を察する。
殺すギリギリの真似はしてよいとのことだった。
「妾は勅使として隣国に向かう。その間に無礼な貴族が不敬罪のような真似をした場合、どうなるかのぉ?」
「勿論同盟は消えるでしょう。我が国から損害賠償を請求できます。しかし不作が続いたあの国は火の車」
「そうじゃ」
既に困窮している国が他国の援助を頼らなくてはならない状況なのだからどうするかなんてわかり切っている。
「良いか遠慮はいらぬ。ボコボコにしてやれ。この妾が許す」
「お任せください!」
キリっとした表情で言い放つユズリハは容赦をする気はなかった。
過去にアスランが受けた仕打ちは今でもはっきり覚えている。
貴族ではないというだけで人の尊厳を踏みつけた屈辱は忘れることはできないのだ。
「今更復縁なんて許しません」
「グレーテルを手放すのも国にとって痛手じゃ」
「はい」
加護がなくともユズリハはグレーテルをアスランの妻に考えただろう。
優秀であるが色々拗らせすぎた弟は人付き合いも上手とは言えなかったのだから。
誠実であるが真面目過ぎる事でアスランを嫌う人間は多い。
そんな中で一途に慕ってくれるグレーテルをとても気に入っていたのだから。
「グレーテルは渡さぬ、アスランじゃ」
「ありがとうございます王妃陛下」
「良い」
少し前までは敵対関係にあると噂をされた二人。
当初はいがみ合いもしたが二人は心から憎み合っていたわけではない。
王妃は母としての思い。
ユズリハは主への思い。
互いの思いが少しすれ違ってしまっただけなのだから。
今は二人の思いは同じだった。
互いに守るべきものが同じになったのだ。
「そなたはアスランを守れ。姉としての務めじゃ」
「はい!」
そして三日後、王妃一行は船で国を出港した。
ユズリハは船を見送った後に王宮に戻った際にまた手紙が届いているのを聞かされ、二人の予測は見事的中したのだった。
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