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第一章

93本当の理由

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港で見送りを済ませたユズリハは不敵な笑みを浮かべた。

「ユズリハ様、手紙がまた届いております」

年若い侍女が見せた手紙を見て読むこともなく握りつぶし、燃やすユズリハにコロネはげんなりした。


「本当にするんですか」

「くどい」

本当ならばユズリハも同行するはずだった。

にも拘らず留守番組になる事を選んだのは理由がある。


出発三日前の事だ。


「ユズリハ、近いうちに隣国に向かうことになった」

「承知しました」

「同盟の話し合いと、あの屑男を少しお灸を据えたいのじゃ」

王妃に呼ばれたユズリハはモリアルの手紙が届く前に隣国に行くことが決まっているのは解っていた。


…がモリアルの手紙が来るまで動くことはないとなかったはずだが。


「予定通りあの馬鹿一家を懲らしめる計画と並行してまだいるであろう?」

「あの伯爵家ですね」

「そうじゃ。何を言っても聞かぬ。頭の悪いあの一家を少し懲らしめてやれねばな?」


アスランには通していないが今も脅迫に近しい手紙は届いている。
復縁の手紙だ。


一時グレーテルが不安になったことを耳にして一切手紙をアスランに通さないように手をまわしたのだ。


「本当に迷惑な連中です」

「妾も正直殺してしまいたいのじゃ。婚約を断り無礼を働き今更婚約をしてやるとは何様じゃ」


相手方からすれば貴族ではないアスランを貴族にしてやると恩着せがましい事を手紙に書き、支度金の要求と相応の暮らしを用意しろ。


挙句の果てには両親揃って世話をしろと言いたい放題だ。


「馬鹿にしています」

「王宮に住まわせろ?馬鹿を言うでないわ」

アクアシア王国では国王のお気に入りの側近には王宮内に住む権利。
言わば王宮の周りにある離宮に住む権利を与えられている。

翡翠宮は他の宮よりも格式がある。
アスランが王に信頼されている証でもあるのだ。

煌びやかではないが品がある作りだ。
貴族ではないがその待遇の良さをどこかで聞きつけたのだろう。

待遇は良くても贅沢をしているあけではない。
元より質素な生活を好むアスランの性格もあるのだが、エレフェスタ家は勝手に勘違いをしているのだ。


「あちらは私が断りの手紙を送り付けたので強引な手段にでるそうです」

「知っている。私の手の者を送ったが…我が国に向かっているそうじゃ」

「本当に馬鹿な親子ですね」

たださえお金がない状況で無理をして隣国に来るなんて馬鹿だと思ったが、こちら側からすれば好都合だった。

「我が国で無礼を働けばどうなるか解っていないのでしょう」

「そうじゃ祖国にいたのなら、あちらの国の法律が適用されよう?」


だが、他国に足を踏み入れ無礼を働けばその国の法律が適用されるのだ。

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