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第一章
91怒りの後に
しおりを挟むモリアルがアクアシア王国を出て二週間。
毎日お祈りをしながら過ごすグレーテルはひたすら父の身を案じていた。
そんな時だった。
手紙がグレーテル宛てに届いたのだった。
「グレーテル、安心して読むがよい」
「王妃陛下」
「私にも報告は来ている」
カーサ達に暴行を受けたと聞かされた時は失神しそうだったが、よく考えればすれもすべて想定内だったのではないかと思う。
モリアルは聡明だった。
案の定、暴行を受けた際に布石を投じていたのだ。
「お父様は現在フェリス家で療養中だとのことです」
「やはりな」
「手厚く治療を受けていると…え」
手紙を読みながら安堵していると、フェスト家の処遇が書かれていた。
「財産、領地すべて召し上げと」
「当然だろう」
アスランはうんうんと頷いている。
既に数多の罪を重ねたのに、お咎めなしというのはありえないのだから。
「だが、これですべてを諦めるとは思えない。聞けばこの者達は自分の都合の良いようにしか解釈しないと言うではないか」
「まぁ…」
「だが、早々に爵位を剥奪するのは得策だろう。まぁ、現段階では借金を背負った没落寸前だったからな」
既に貴族として機能などしていない。
それが爵位を奪われたぐらいでは何も変わらない。
ただ住む場所がなくなるぐらいだが。
「一度、自分達の力だけで生きてみればよいのじゃ」
「王妃陛下…」
「あのような連中は一人では何もできぬ世間知らずじゃ。狩り一つ何もできんわ」
貴族のすべてが狩りができるわけではないのだが、言っていることは正論だ。
自分達の力で生きていくことも必要だと思ったが、フェスト家が貴族でなくなるのは早すぎないかと思った。
「こちらにも手紙が来ておる。国王からじゃ」
「それは…」
「あの馬鹿男め、先代国王に偶然町にあった時に無礼を働いたというのに。王宮に呼び出されても遅刻したそうじゃ」
「馬鹿ですか。いや馬鹿でしたね」
「なんと馬鹿な事を」
普通にありえない。
一国の王に呼ばれて遅刻だなんて。
「何を考えいるのかしら」
「非常識な連中だ。だがこれで何もできんだろう」
元よりカーサ達に何かできるわけはないのだが、貴族でなくなった今発言権はほとんどない。
しかも問題を起こせば相当な罰が下る。
貴族であれば色々問題が生じるが平民にしてしまえば殺すも生かすも簡単なのだから。
「手紙には、時期的には良いと…」
「そうか。では私達も予定を合わせて旅支度をした方がいいな」
ようやくこの日が来たのだ。
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