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第一章
87最後の情け
しおりを挟む怒りを通り越して呆れたと言わざる得なかった。
(なんだこの屑親子は!)
(ある程度解っていたけどここまでとは)
(醜い、醜すぎる!)
先代国王、フェリス侯爵夫人、国王の三人は思った。
ここまで愚かな人間がこの世にいたのかと。
同時に馬鹿だった。
少し頭がいい貴族なら見た目だけでも取り繕い演技で良い親を演じで印象を良くしようとする。
例えそんな真似をしても無駄であるが、これ以上印象を悪くする方がマシだ。
「侯爵夫人、これらは何所まで馬鹿なのだ」
「返す言葉もありません」
「私も選んでおいて言うのもなんだが。こんな馬鹿がどうして今まで生きていたのだ」
国王も頭を抱えた。
例え下級貴族であっても馬鹿では社交界を生きていくことはできない。
なのに何故と?
「先代が優秀であったのでしょう。後はクロレス家の絶妙なるフォローと、家業に関してはグレーテルに丸投げです」
「何所までも馬鹿な男よな」
グレーテルと婚約していた時は、難しい商談話に人脈作りは丸投げだった。
「最後に懺悔をして謝れば情けをかけようかと思っていた」
「先王陛下…」
「だがそんな気持ちは全くない。むしろ今すぐこの三人を死刑にしてやりたい」
どんなに憎かろうか、情が深く国を民を誰よりも愛した男は優し過ぎた。
口では乱暴な事を言おうとも心からグレーテルに詫びるならと思ったが、この三人のやり取りを見て察した。
もしグレーテルが婚約破棄の後に単身で隣国に行った事を告げたとして。
三人はどう思うか。
「見苦しい。何所までも浅はかな者よ。お前達は義務も責任もないようだな」
「はい?」
「ならば責任をすべて放棄せよ。どのみち没落まっしぐらであろう」
殺す価値もない。
諭す価値もない人間と判断した。
「王の命令を無視しただけでなく傍若無人に振る舞い社交界の風紀を汚した罪は軽くない」
「えっ…」
「婚約者を粗末に扱い、慰謝料を支払わず、国外に追放した鬼畜外道…これだけでも相当な罪になる」
「何を…」
「先王陛下!お待ちください…婚約に関してはあの愚かな出来損ないが勝手に。私達は被害者です」
「そうです。あんな価値のない女を数年婚約者にしてやっただけでも…」
最後の最後までこの三人は相応な馬鹿だった。
今でも感情を抑え込み、最後の情けをかけていた。
この場でボコボコにするのは止めようと思ったが。
「そうか、そんなに死にたいか」
既に堪忍袋の緒が切れた。
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