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第一章
77役割
しおりを挟むグレーテルの環境を思えば強く言えない。
だが、身近な者がちゃんと言わなくてはならないのでユズリハは苦悩した。
思えばアスランも同じだった。
幼少期に複雑な家庭環境に身を置いた。
その所為で何度も養子に出されては捨てられ、また引き取られての繰り返し。
安心できる場所はなかった。
そんな折、アスランを見初めたのが現国王だった。
幼くとも聡明で学びに精を出し、努力家であるだけでなく細かい事に良き気づく。
その一方で欲がなさ過ぎた。
自分の為に動けない性格だった。
(本当に似た者同士だ)
我儘が言えない環境だったのは否めないが実姉にすら中々弱みを見せなかった。
そんな不器用なアスランの唯一の我儘がグレーテルだった。
ユズリハからすれば一生独身を貫くだろうと思い込んでいたのでから万々歳だったのだが、これまでの環境を聞いて眩暈がした。
家族には恵まれていないわけではない。
愛のある家庭で育ったが、問題は他にあり、環境も決して恵まれていると言えなかった。
だからこそゆっくりでもいい。
我儘を言って欲しいと思い待っていたが、悠長に構え過ぎていたのだと反省した。
「正直、お前にこのようなことを言うのは不服だ」
「だったら言わなきゃいいじゃないですか…って、何で殴るんですか」
「一言多いのだ」
本来ならコロネの役目ではなかった。
義姉であり小姑であるユズリハが言うべきだったのをコロネが言ってくれたのだから。
「私がもっと早く言うべきだった」
「言っても聞かないでしょう。ある意味思い込みが激しいですから」
無言であるグレーテルの方がビクついた。
自分で勝手にしょい込んで決めつけてしまう癖は自覚していた。
「仕方あるまい。環境故に…そんなものアスランも同じ。むしろもっと酷いわ」
「大きな声で言うことですか」
「もう少し我儘に、欲を持てと言いたい。とはいえ私達が言っても聞かんだろう」
第三者が言っても治るものではないし、既に性格的な物もある。
「短所である長所であるからな」
「ならその間に立つ役目が俺でしょう」
「私の役目でもあったんだがな…グレーテルよ」
「はっ、はい!」
ユズリハはグレーテルに向き直る。
「グレーテル。覚えておきなさい」
「はっ…はい」
「自己犠牲で守れるのは己だけ。大切な人をこれ以上無いほど傷つけるだけだ」
守るためにはまずは自分の身を守らなくてはならないことを言い聞かせた。
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