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第一章

76コロネとユズリハ

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正直ここまで思いつめているとは思わなかった。


「コロネ様サイテー」

「女の子泣かすなんて」


「本当に鬼畜外道ですね」


厨房係がお茶を用意して現れるも膝を抱えて泣いているグレーテルを見て一同はコロネに軽蔑の目を向けた。

「ユズリハ様に報告だな」

「なっ!」


コロネがこの世で最も恐ろしいと思う人間。


ユズリハだった。


「止めろ!ユズリハ様にそんな」

「呼んだか?」


噂をすれば影。
呼ぶ前に現れたユズリハはバスケットの中に葉試作品のパンがどっさりだった。


「コロネ、貴様…」

「待ってください!」

「私の義妹を泣かせたか…親子ほど歳が離れた娘を泣かせるとは」


ボキボキと関節を鳴らすユズリハ。
体から冷気を纏っている。

しかもユズリハは女性ながらに武人顔負けだった。


「どういうことか説明してもらおうか?」

「いえっ…それは」

「女を泣かせるとはどういうことだ」

アクアシア王国では自分よりも小さな者。
か弱い者は労わる事こそが美徳とされている。

そのおかげで国民は王を慕っている。
中には権力を傘にかけてやりたい放題をしている貴族もいるが、そんな連中は後から裁かれているのだが。


「お義姉様!悪いのは考え無しの私で…」

「だとしても女を泣かせていい理由にはならん。我が国はレディーファースト。陛下が常に妻を大事にとおっしゃっておられるでしょう」

重々承知している。
だが、今回は必要だったのだ。


「解っている。だが、グレーテルの為を思ってだな」

「もう少し言い方があるだろうが」

「ひぃ!」

胸倉を掴み拳を向けるユズリハに恐怖を抱くのだが、いきなり手を離される。


「まぁ、今回は許してやる」

「本当ですか」

何時もならばここで殴る蹴るの繰り返しなのだが。


「何を考えておられるのですか」

「失敬な、何も…」


さっきまで殺意をぶつけていたのに何故と思うが、ユズリハはため息をつく。

「別に今は殴らん」

「今はって何ですか」

「ええい!男が何時までもネチネチ言うのではない…グレーテルに免じてとりあえずこの場で殺すのは勘弁してやると言っている」

「この場でですか!」


当初はその場でボコボコにしてやろと思ったのだが…


(グレーテルに泣かれそうだし…それに)

ちらっとグレーテルを見る。
自己犠牲をしがちなグレーテルにどんなに言い聞かせても効果はないと思っていた。


ある意味自覚させるのは厳し言葉も必要だが、アスランもユズリハもグレーテルには甘くなってしまう。
だからこそ身近でありながら厳し事を言ってくれるコロネの言葉ならすんなり受け入れると思ったのだ。


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