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第一章
75厳しい言葉
しおりを挟む変わらない日々を送りながらもグレーテルは今日もパンを焼いていた。
最近は新しいパンの考案を任された。
ブランのパン屋を通じてギルド長にパンを持っていた事で、新しいパンの考案を任された。
事前に王家にも新たなパンの考案の許可を得ていた。
最近は豊作とは言え、雪国では気候に恵まれた国よりも食料の確保が難しい。
特に国境付近や北の最果て等ではパンの保存に苦している。
そこで白羽の矢が立ったのがグレーテルだったのだが、一部ではグレーテルに嫉妬した者達の嫌がらせだったのだが。
「グレーテル、パンは焼けたか」
「はい」
グレーテルは気づくことなくパンを完成させた。
ブランデーの入ったパンを作り保存も可能にし、尚且つパンを凍らせることで長期保存ができたのだ。
過去にもパンを冷凍した記述があったのだ。
「これですべて完成ですね」
「そうだな…って、浮かない顔をしているな」
「すいません」
グレーテルはここ数日ずっとこうだ。
パンを焼いている時も浮かない表情をしており、厨房係の皆を心配させていた。
「親父さんの事か?」
「えっと…」
「国王陛下も心配をされていると聞いた」
コロネは変わらない表情でグレーテルを慰めた。
今では第一王子の一番の側近の婚約者であり、王妃陛下のお気に入りの侍女だ。
本体ならこんな風に接することはできない。
…のだが、アスランの意向だった。
王宮内では厨房係ぐらいしか親しくしい友人はいない。
特にコロネを父親のように慕っているのでアスランが頼み込んだのだ。
コロネ自身もグレーテルを娘のように接していた。
なので、後からアスランからグレーテルの境遇を知った時は激怒したのは別の話だった。
「親父さんの事が心配なのは解る」
「私も一緒に帰国すればよかった…」
「それじゃあ本末転倒だろうが」
コロネは困った表情をする。
グレーテルが責任を感じているのは知っているが、もし一緒に帰国する方が心配だ。
「この状況でお前が帰国しても足手まといだぜ」
「足手まとい…」
「キツイ言い方をするが…お前は甘い。それから親の気持ちを少しは考えろ」
泣きそうな顔をするグレーテルに心が痛んだが、コロネは心を鬼にした。
「国を出る時お前は親父さんや世話になった邸の人に何も言わなかった。そこは無責任だ」
「はい…」
「お前が消えて、悲しまないはずがない。その後もお前は連絡をしなかっただろう」
できないなんて言い訳だ。
考えれば手段があるはずなのにしなかった。
「自己犠牲なんて自己満足だ。大事な人を傷つける」
「ごめんなさい」
無意識にグレーテルは泣いていた。
そしてこれまで自分が何所まで馬鹿で勝手な事をしたか改めて思い知らされた。
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